信州読書会さんに参加させていただいて、毎週金曜日に
課題図書の感想文を提出させていただいています![]()
今回は、小川洋子氏の『 博士の愛した数式 』の感想です![]()
「ぼくの記憶は80分しかもたない」
80分しか記憶が持たない人が身近にいたら、どうしますか?
私は、想像だにしたことがなかったのですが、やはり大変なのは
わかります![]()
みんな自分の感覚が「常識」なので、他人との意思疎通は
普通でも難しいのです
80分しか記憶がもたない数学者と、家政婦とその息子が
心を通わせていく物語です。
家政婦の「私」は、最初は数学にしか興味を示さない「博士」に
困惑します。そのうち、博士の優しさや数学への情熱をに
触れていくうちに、博士に尊敬や親しみを持つようになります。
コミュニケーションって何なんだろう?と改めて考えることが
できます。
物語としても素晴らしいのですが、数学の知識も文学的に
散りばめられていて、数学が苦手な私でも、少し数学が好きに
なりました
「友愛数」というとても素敵な数字の関係も
知ることができました。
数学が得意な人も苦手な人も、コミュニケーションが得意な人も
苦手な人も、最後はほっこり心が温まること請け合いです![]()
『 非存在の存在 』
数字に記号以外の意味を見出せなかった私は、数学は苦手だった。国語や歴史、生物のように血が流れている「有機」
的な感じが一切しないからだ。公式に当てはめる「無機」的な存在が数字だった。
しかし、博士は見事に数字に血を流していく。友愛数、完全数、素数、三角数…それぞれ人格を持っているかのような
説明に、私自身、あっという間に惹き込まれる。
博士は、記憶が80分しか持たない脳障害を抱え、通常ならまともなコミュニケーションは取れない。では、健常な人間
同士なら、コミュニケーションがうまく図れるかというとそうではない。
数字でしかコミュニケーションが図れない博士に対して、家政婦や息子の√が根気よく寄り添ったようにはならないと
思う。そこには、相手への「愛」がないと成り立たない。相手のことを考え、幸せであってほしいと思う気持ちがなければ、
何人、健常な人間が集まってもすれ違うだけだ。
未亡人と険悪な空気に陥った際、博士のそっと差し出した世界で一番美しいオイラー公式≪eπi+1=0≫に込めら
れた意味を考えると切ない。
( 引用始め )
しかし、0が驚異的なのは、記号や基準だけでなく、正真正銘の数である、という点なのだ。最小の自然数1より、1だ
け小さい数、それが0だ。0が登場しても、計算規則の統一性は決して乱されない。それどころか、ますますの矛盾のなさ
が強調され、秩序は強固になる。
( 新潮文庫 P.220 )
( 引用終わり )
「存在」を証明するには、「非存在」が必要だ。インドの名もなき数学者が発見した0の概念は、私自身は考えたことも
なかった。事もなげに「何もない」ってことだと思い込んでいた。「何もない」ということではなく、りっぱな一「存在」であり、
秩序や結びつきを強固にするものだった。
きっと、博士がオイラー公式に込めた想いは、+1により「0」になる公式に、家政婦親子と未亡人との調和を求めたの
ではないだろうか。数字でしかコミュニケーションが取れない博士の哀しい手段に涙が出てしまう。
他人との調和は、確かに難しい。それでも、博士は自分なりの「数字」を使ったコミュケーションで、家政婦親子と大切
な関係を育めた。秩序や結びつきの「0」と人間同士の「コミュニケーション」はどこか似ているような気がした。
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