その馬は、3歳の快速自慢を決めるNHKマイルカップをレコードで優勝し、次の冠を東京優駿に定めていた。
とはいえ馬券師たちはその強さを認めつつも、全幅の信頼を置いてはいなかったと思う。ダービーの単勝は3倍台だった。
しかしその馬はまるであざ笑うかのように、観客たちに凄まじいパフォーマンスを見せつけた。
キングカメハメハ。
当時すでにサンデーサイレンス(以下SS)の子どもたちが競馬界を席巻していたが、この馬は父Kingmanbo。あのエルコンドルパサーの父でもある大種牡馬だ。
そのエルコンドルパサーの早逝もあり、SSの血が入っていないキングカメハメハもデビュー前から種牡馬として期待されていたらしい。
まぁ、そんなことはキングカメハメハのことを多少なりとも知っていれば基礎常識に近いものなので、このくらいにしておく。
書きたいのはキングカメハメハと僕の思い出である。
実は僕はキングカメハメハの現役時代をほぼ知らない。競馬自体をあまり真剣に見てなかったのだ。
だから、僕の感想はキングカメハメハの子どもたちが主となる。
キングカメハメハの子どもたちというのは、意外とSS系と交配されていない。
三冠牝馬アパパネ、超良血ルーラーシップ、世界のロードカナロア。ダートの帝王ホッコータルマエ。
最近ではラブリーデイやドゥラメンテはSSの血が入っているが、意外と活躍馬にはSSの血が入っていなかったりするのである。
これは意外といえば意外で、当然SS系との配合も多く試されているのだが(というかキングカメハメハを持ち込んだ時点ではそう考えていたはずである)不思議なことでもある。
ここからは想像に依るが、キングカメハメハの子どもたちは、来たるSSの血の飽和へ対応するべく、種牡馬を見越して配合されたのではなかったか。
同時期の種牡馬のライバルとしてディープインパクトがいる。しかしディープインパクトの配合には、あまり種牡馬的な期待というより競走馬としてのクオリティを求められているような気がしていた。
それはディープインパクトがSSの直系ということもあったろう。結局、ディープインパクトの後継種牡馬というのは難しいところがなくもない。
それと比較して、キングカメハメハの後継は、すでに結果を出していてSS系と合わせやすいロードカナロアやルーラーシップもいるし、少し配合に難はあるもののドゥラメンテもいる。
ディープインパクトとキングカメハメハは平成後期の二大種牡馬である。
競馬はブラッド・スポーツと呼ばれるが、意外と血を残すのは難しい。
日本で数十年に渡って残っている血というのはサクラバクシンオーから遡るテスコボーイの血くらいだが、それも傍流ではある。
ディープインパクトとキングカメハメハ。
このニ大巨頭が相次いで死んでしまった。
今後、日本競馬の血統地図がどうなるかわからないが、個人的にはディープインパクトよりもキングカメハメハに軍配が上がるのではないかと思っている。
とにもかくにも、これからの競馬界も楽しみではある。
場合によってはSS以前の競馬界のようにいろんな血統の馬が馬柱に名前を並べるかもしれない。
それはそれで、とても楽しみなことではある。
キングカメハメハ。
天国から競馬場を眺めながら安らかに眠ってほしい。