幻のラブレターズ -6ページ目

花の神殿

花の神殿 2021.04.27

花の神殿 2021.04.27




花の神殿に居ます。

もう、
あれからずっと、 

わたしは花の神殿に居ます。




清らかな花々で覆われた、
美しく芳しい花の神殿に居ます。




きみに、
一言も、
何も言えないまま

瞬く間に
ひと月が過ぎました。






ちょうど1か月前。骨折5回目のぼくの左手首からボルトが抜けて、ブラックジャックの傷跡が2本、新たにぼくの腕に刻みこまれました。それから、神様から絆創膏を2枚頂いて、その3日後、白い封筒が届きました。白い封筒は何故か絆創膏と全く同じ寸法で、絆創膏と絆創膏の間に封筒を挟んで、痛くないように、見えないように、きみの温かな誠意は新型神様サンドイッチになりました。そうして、花の神殿にお供えしています。





花の神殿には、
長い長い参道があって、

参道にもまた
真っ白な花が一面に敷き詰められています。





花の神殿の参道脇には、
誰かが立っているのですが、

はじめは何故か、
膝から下しか見えなくて、

 

 

 


大切な何かを伝えに来たのか、
立ち去ろうとしているのか、

 

迎えに来てくれたのか、
花の神殿まで一緒に行ってくれるのか、




ずっとよく分からないまま、
1か月が過ぎてしまいました。





おかしな事に、左手首のボルトを抜くために、ぼくは麻酔で眠らされたのに、サクッとリンゴでも切るみたいに、突然どこかで目が覚めちゃって。だけど、目が覚めてるのに目が開かない!声を出したいのに唇も動かない!しかも、左手首がサクサク軽快に刻まれているから痛いはずなのに、なんだかどこか他人事みたいで、別の誰かの手が刻まれてるように遠くって、それなのに、確かに振動はプルプル伝わってきてる。
ああ、万事、自分の痛みはこんな感じで、ずっとこれまでこうやってやり過ごしてきたんだな、って。なんとなく、そう確信したんだ。





1か月経って、
このところ、

膝から下しか見えなかった
参道脇の誰かの姿が、

何故か
見えるようになりました。




 

ぼくがザク切りリンゴになったとしても、それはぼくの不注意で階段から落ちただけのことで、きみはひとつも悪くないし、きみはちっとも間違ってなんかいないよ。むしろとても素晴らしい、とてもおめでたい、とても幸せなことに違いない。実際、女神は心からきみの幸せを喜んで、大仕事を終えた安堵と神様への感謝でいっぱいなのに。なのに、小さな女の子は口がきけなくなってしまって、どうしたらいいのか、よく分からなくなってしまって、また誰かがリンゴを切っているのを、他人事みたいなふりしているだけなんだろう。大筋のところ、そういう事に違いない。しかも驚いたのは、きみにイチゴのショートケーキを勧めていたはずなのに、いざとなったら、ぼくは何にも使い物にならない超ポンコツで、想像していた以上に重症患者だったって事に、我ながら驚きを隠せない。たぶんきっと、そんなこと、これまでだってごく普通にずっとあったはずなのに、ずっと見ないように過ごして来てたあちら側の現実が、いきなりこちら側に来てしまうと、うまく処理が出来なくなって、システムエラーを起こしてる、やっぱアップル!




 

全部リンゴのせい。





これまでだって、あったけどなかったことだから、これからだって、多分何てことなくなるはずだろうから、きっとそのうち緊急事態みたいに慣れてしまうに違いないし。そう思って、パーテーションを作ってみようとしたりもするんだけど、あちら側とこちら側のシールドが一度外れてしまうと、もうなかなかダメなのかもしれなくて、きみの顔を見るのも、声を聞くのも、苦しくて、必死にザク切りリンゴのせいにして、






リンゴのばか!

 

 

 

 

 

 

とか言ってみたり。そんなこんなで、いつの間にか、身体が透けてまた何もかも忘れてしまって、人形、どっか消えちゃう。やっぱり、みんなみたいには上手く出来なくて、ごめんなさい。きみが居ないと、なんだか力が抜けてしまって、ぼく、月に連れて行かれてしまうのかな。









だから








花の神殿に居ます。

もう、
あれからずっと、 

わたしは花の神殿に居ます。




 

清らかな花々で覆われた、
美しく芳しい花の神殿に居ます。




花の神殿には、
長い長い参道があって、

参道にもまた
真っ白な花が一面に敷き詰められています。






花の神殿の参道脇には、
誰かが立っていて、

 

 

 

 



大切な何かを伝えに来たのか、
立ち去ろうとしているのか、

迎えに来てくれたのか、
花の神殿まで一緒に行ってくれるのか、





ちゃんと、

本当のことが分かるまで、
 

 

 

 

 

 

わたしは花の神殿に居ます。













とっても






遅くなっちゃったけど、

 

 

 



ハニー、

おめでとう。








きみの幸せはぼくの幸せ。

きみの幸せはぼくの幸せ。

きみの幸せはぼくの幸せ。

 

 

 




 

 

野々村彩乃/ 私を泣かせてください オペラ「リナルド」より 

Lascia ch'io pianga/Ayano Nonomura 

https://youtu.be/7OCcLg0VwG4

 





ハニー愛してる

花の神殿

かおり