前回は、ストレスとはどのようなものなのかについてお話ししてきました。
今回は、ストレスと密接にかかわっている「うつ病」についてのお話です。
近年、うつ病は年々増加しており、今後はさらに増加が加速していくとみられています。
それでも、心配はありません。
うつ病は、早めに適切な対処を行えば、十分に回復が見込める病気です。
うつ病とはどのような病気なのか?
うつ病の患者数は近年増加しており、平成29年の厚生労働省「患者調査」によると、日本の精神疾患を患っている総患者数は、400万人を超える水準となっています。
以前から、精神疾患の総患者数は増加すると言われていましたが、新型コロナウイルスの出現により、さらにその数の増加に拍車がかかっているとみられています。
うつ病は、 決して他人事ではなく、「誰にでもなる可能性がある病気」です。
“まさか、 自分がうつ病になるはずはない”と、うつ病になる以前の私は思っていました。
自分だけはうつ病にならないという、何の確信もない自信があったのです。
けれども、 うつ病は、自分でも気づかないうちに忍び寄ってきていて、気づいたときには、私の心身をむしばんでいました。
何がどうなったのかわからず、 思い通りに身体が動かなくなり、これをやろうと決めたとしても、やる気がまったく起きないのです。
元気なときなら1日で終わるようなことが、何週間もかかってやっとできるような状態でした。
そのたびに、思い通りの行動ができない自分に嫌気がさし、どんどん自己嫌悪に陥っていきました。
漠然とした絶望感や不安などに毎日襲われていました。
誰にでも気分が落ち込んで、やる気が出なくなることはあるけれど…
誰でも、気分が落ち込んだり、やる気が出なくなったりすることはありますが、たいていの場合は、数日たてば、元通り元気になるものです。
しかし、うつ病の場合はつらい状態が長く(2週間以上)続きます。
うつ病は、脳の働きに何かしらの問題が起きている状態であると考えられています。
私たちの脳には、情報伝達を担っている、「神経伝達物質」というものが存在します。
簡単にいうと、私たちが行動できるのは、この神経伝達物質によって、心の機能(意思や感情)や身体の機能(行動や運動)を行う細胞に情報が伝えられているおかげだと言えます。
しかし、過剰なストレスや過労などが引き金となって、この神経伝達物質が減ったり、働きが鈍ったりすると、うつ病の症状があらわれてきてしまいます。
出典:https://www.jomo-news.co.jp/articles/-/105209
うつ病は、決して気持ちの持ちようで解決できるものではなく、脳の働きに問題が起きているために引きおこる、早い段階で適切な治療が必要な病気なのです。
うつ病の症状
うつ病の症状は、大きく分けて、心の症状と身体の症状に分かれます。
【心の症状】
・意欲の低下
うつ病になると、意欲がわかず、いつも普通にやっていたことをするのもおっくうになります。
また、疲れやだるさを感じることも多く、特別難しいことをしているわけでもないのに、何かをするとき普段よりも長い時間がかかるようになってしまいます。
うつ病で意欲がわかないという症状は、仕事だけではなく、日常のあらゆる場面であらわれることがあります。
たとえば、食事を作るのがおっくうになる、お風呂にも入るのも面倒、といった具合です。
だんだんと、何をするのも負担に感じられ、朝起きて顔を洗う、歯を磨く、着替える、といった「日常的にやっていたこと」にとりかかるのもおっくうに感じるようになります。
・抑うつ気分
「抑うつ気分」という言葉は、最近よく耳にする言葉ですが、あまりイメージがわかないかもしれません。
抑うつ気分は、「悲しい」、「希望が持てない」、「憂うつ」、「気分が落ち込む」という言葉に置き換えるとわかりやすいです。
また、今にも泣き出しそうになったり、世の中が嫌になったり、イライラしやすくなったりすることもあります。
・じっとしていられないほどの不安、焦燥
何かに関して不安を感じることは、誰にでもあるものです。
一方、うつ病の場合、「不安」を感じると、じっとしていられなくなります。
また、誰でも、普段の生活の中で焦ってイライラした経験はあると思います。
うつ病の場合の「焦燥」とは、静かに座っていられない、足踏みをする、手首を回す、皮膚や服その他のものを引っ張ったりこすったりする、といった症状が含まれます。
このような症状は、ただ自分で“落ち着きがない” と思っているだけでなく、周りの人がみても十分わかるほどはっきりとした、重い症状です。
・過剰に自分を責めてしまう
典型的なうつ病では、自分を過剰に責めてしまうことがあります。
うつ病になると、 考え方にゆがみが生じ、すべて自分のせいだと感じてしまうことが多くなります。
そのため、 頼まれたことができずに、“こんな自分で申し訳ない…”と思ったり、いつもなら簡単にできたことが思うようにできなくなって、“私なんか生きている意味ない…”と思ってしまうこともあります。
ただひたすらに自分を責め、“もう、どうすることもできない…”と絶望感にさいなまれることも多くなってしまいます。
うつ病になると、頭が働かない状態になりやすく、自己肯定感も著しく低下してしまいます。
その結果、考え方や物事の捉え方にゆがみが生じて、過剰に責任を感じてしまうようになってしまうのです。
うつ病ではなくても、仕事で失敗して責任が果たせなかったときなどに、自分を責めてしまうことはあると思います。
しかし、うつ病の場合、本人とは関係のない、またはちょっとした出来事でもすべて自分のせいだと考えてしまい、責任をより重く感じてしまいます。
また、取り越し苦労が増えたり、自信を喪失してしまったり、“自分は生きていても仕方ない…”と思ってしまう傾向があります。
・遠くへ行きたい、消えてしまいたい
うつ病になると、“遠くへ行きたい…” “消えてしまいたい…”などと思うことが多くなります。
つらい気分が続き、物事が思ったようにできなくなってしまうため、必要以上に自分を責め、こんなつらい状態のまま生きていくなんて嫌だ、つらさから逃れて早く楽になりたい、という気持ちに陥ってしまいます。
このような症状は、うつ病の診断基準のひとつにもなっています。
・興味や喜びの喪失
興味または喜びの喪失は、「抑うつ気分」と並んでうつ病によくみられる症状です。
この症状になると、以前と比べて何事にも興味や関心が持てなくなってしまいます。
たとえば、今までお気に入りだったテレビ番組を観てもつまらないと感じる、テレビを観る気すら起きない、といった様子がみられます。
それだけではなく、普段の生活にも影響が出てきます。
例えば、これまではファッションやメイクなどを楽しんでいたのに、そんな気分にもなれずに、外出もしなくなる、といった状態になってしまいます。
【身体の症状】
・睡眠障害
睡眠障害は、うつ病を患う人の多くにみられる症状で、十分な休養を取ることが難しい状態です。
睡眠障害は、うつ病に限らず、さまざまな病気で起こり得ますが、うつ病の場合、睡眠障害のある人は 82~100%と極めて高い確率であらわれます。
うつ病でみられる睡眠障害は、不眠と過眠の2つに大きく分けられますが、多くの場合は不眠です。
不眠は自分で気づきやすい症状のため、ほかの症状があらわれる前にまず、「最近眠れない」という理由で病院を訪れる人が少なくありません。
・食欲の低下/増加
うつ病になると、多くの場合、以前と比べて食欲が変化するといわれています。
食べたくなくなる(食欲の減退)、たくさん食べたくなる(食欲の増加)の2通りがありますが、よくみられるのは食欲の減退で、好きな食べ物さえも食べる気にならないほどになってしまいます。
食欲がなくなって、無理をして食べたとしても、味気がなく、おいしいと感じられません。
また、食べるという行為自体が苦しいと感じてしまうこともあります。
一方で、食欲が増加してしまうこともあります。
この場合、甘いお菓子や炭水化物など、ある食べ物だけをたくさん食べてしまうことがあるのですが、食べても食べても満足感が得られません。
食べ過ぎてしまうため、短期間のうちに体重が増加してしまうことがあります。
・疲労感、倦怠感
疲れやだるさは、うつ病患者の半数以上でみられる症状です。
最初に「疲れがとれない」「からだがだるい」といった理由で医療機関を受診して、その後うつ病と診断されるケースもあります。
私たちは日常、精神的あるいは肉体的な疲れが生じる状況に置かれていますが、ストレスを感じることがあっても、バランスをとってくれるシステムが私たちの身体には備わっています。
しかし、うつ病になると、そのシステムが正常に働かなくなってしまい、特別疲れるようなことはしていないにもかかわらず、ぐったりしてしまいます。
また、慢性的な疲れが続いて、最低限の仕事でも努力をしないとできなくなることがあります。
「疲労感・倦怠感」があると、ちょっとした日常動作がしんどく感じることも多くなります。
たとえば、朝、顔を洗って歯磨きをしたり、着替えたりするのがしんどいなど、ちょっと動 いただけでも、どっと疲れが出てしまいがちです。
人によっては、座っているだけでも疲れてしまい、すぐに横になりたくなってしまうこともあります。
・動悸、息苦しさなど
うつ病の身体の症状には、睡眠障害、食欲の減退、疲労感・倦怠感といった症状のほかにも、動悸、息苦しさ、口が渇くなど、一見うつ病とは関係ないように思える症状があらわれることがあります。
このような症状があらわれた場合、原因がわからずに、最初は内科を受診する人も少なくありません。
また、うつ病の人にあらわれる動悸・息苦しさ・口が渇くといった症状の原因が、自律神経の乱れによるものである場合もあります。
自律神経は、私たちのからだ中を張り巡っている神経で、ほとんどすべての臓器を調整しています。
臓器自体に異常がなくても、それを調整する自律神経の働きに問題があれば、さまざまな症状があらわれる恐れがあります。
自律神経の乱れによる症状は、人によってさまざまですが、うつ病による自律神経の乱れが原因であらわれる症状としては、めまい、脈が速くなる、血圧の変化、胸の圧迫感、胃の不快感、腹部膨満感、便秘などがあります。
高齢者のうつ病の場合、便秘になることが多いと言われています。
便秘の状態が続いていると、うつ病の「抑うつ気分」がさらに悪化してしまうこともあるため、このような症状も含めて医師に相談することが大切です。
まとめ
・うつ病は、 決して他人事ではなく、「誰にでもなる可能性がある病気」
・うつ病は、脳の働きに何かしらの問題が起きている状態であると考えられている。
・過剰なストレスや過労などが引き金となって、この神経伝達物質が減ったり、働きが鈍ったりすると、うつ病の症状があらわれてきてしまう。
☆神経伝達物質:私たちの心の機能や身体の機能を行う細胞への情報伝達を担っているもの
・うつ病の症状は、大きく分けて、心の症状と身体の症状に分かれる。
・心の症状には意欲の低下や抑うつ気分、自分を責めてしまうなどとといったことがみられる。
・身体の症状には、睡眠障害や慢性的な疲労感、食欲の低下などがみられる。
☆「抑うつ気分」は、「悲しい」、「希望が持てない」、「憂うつ」、「気分が落ち込む」という言葉に置き換えて考えるとわかりやすい