受託開発やSIを手がける企業の経営層の方と話していると、AI駆動開発(AIDD)の話題はほぼ必ず出てきます。ただ、その関心は前向きなものばかりではありません。「工数が減れば、人月ベースの売上も減るのではないか」という懸念とセットになっていることがほとんどです。
今回は、現場の実装論ではなく、経営としてこのテーマをどう扱うかを整理してみます。
工数削減は、そのまま減収になるのか
短期的には、その圧力は確かにあります。人月で見積もる限り、生産性が上がった分だけ請求額は下がる構造だからです。
ただ、価格は自社の都合ではなく市場で決まります。AIを使って同じ品質を短期間で出す会社が増えれば、見積り水準はいずれそちらに引きずられます。つまり「使わない」という選択は、減収を回避する手段にはなりません。工数削減分をどこに再投資するか—受注件数を増やすのか、上流工程の比率を上げるのか、成果連動の契約形態に寄せるのか—を先に決めておくことが、経営判断としては本質だと考えています。
「人が足りない」という前提は変わっていない
情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2025」では、日本企業の85.1%がDXを推進する人材の不足を感じていると報告されています。また経済産業省・みずほ情報総研の試算では、国内のIT人材不足は2030年に最大で約79万人に達するとされています。
需要が縮んでいるわけではなく、供給が足りていない。この構造が続く限り、AIによる生産性向上は「売上を削る要因」ではなく「受けられる案件数を増やす要因」として働く余地があります。
経営として先に決めておきたい3点
- 適用範囲:どの工程から入れるか。全工程一斉ではなく、効果と検証コストのバランスで選びます。
- 品質担保の責任分界:AIの生成物を誰がレビューし、誰が最終責任を負うか。ここが曖昧なまま進むと、事故が起きたときに社内で説明できません。
- 価格モデル:工数削減を値引きとして渡すのか、納期短縮や品質向上として提示するのか。
工程ごとに何をAIに任せ、どこを人が担保するのかについては、要件定義から設計・テスト・レビューまで工程別に整理した記事が実務的で参考になります。
小さく始めて、社内の基準を作る
いきなり主力案件に入れる必要はありません。1案件、あるいは社内システムの改修あたりから始め、そこで得た「使ってよい範囲」「レビューのやり方」「顧客への説明の仕方」を社内標準に落とす。この順序のほうが、結果的に展開は速くなります。
外部の力を借りる場合も同様です。ベトナムを拠点にAI駆動開発の支援を行うカオピーズなどは、委託先を選ぶ際の確認項目を公開しており、自社で基準を作る際のたたき台として使えます。
まとめ
- 工数削減は短期的には減収圧力になるが、使わない選択は回避策にならない
- 人材不足という前提は変わっておらず、生産性向上は受注余力に転換しうる
- 経営が先に決めるべきは「適用範囲・責任分界・価格モデル」の3点
- まず1案件で試し、社内基準に落とすほうが展開は速い
