プラセボ効果やノセボ効果は、心と身体の相互作用(いわゆる「心身相関」)を象徴する現象です。これらは単なるその人の思い込みということではなく、神経科学的・心理学的に根拠のあるメカニズムによって説明されています。それぞれについて、なぜ起こるのかを以下に詳しく説明してみたいと思います。
【プラセボ効果とは?】
本来、有効成分を含まない偽薬(プラセボ)を投与されたにも関わらず、症状の改善が見られる現象のことをプラセボ効果といいます。
※なぜ起こるのか?
・期待と信念の力
患者が「この薬は効く」と信じることで、脳が実際に治療効果を模倣するような反応を示します。これは報酬系(ドーパミン系)やオピオイド系といった脳内神経伝達物質の活性化によって引き起こされることが知られています。
・条件づけ(古典的条件づけ)
過去に似たような薬を飲んでよくなったという経験があると、「薬を飲む」という行為自体が治癒への条件刺激となります。これは条件反射の観察実験である「パブロフの犬」のような条件反射的反応と考えられています。
・脳の疼痛制御システムの活性化
痛みに関しては、プラセボでも脳内でエンドルフィン(内因性オピオイド)が放出されることが確認されています。これはモルヒネと同様の鎮痛作用を持ち、実際に痛みを軽減します。
【ノセボ効果とは?】
効果があるとされていない無害な薬剤にもかかわらず、「副作用が起こるかもしれない」と信じることで、実際に不快な症状が出現する現象です。
※なぜ起こるのか?
・不安・恐怖の影響
副作用の説明を受けたり、ネガティブな思い込みを持ったりすると、扁桃体(感情処理に関わる脳領域)が活性化し、ストレスホルモン(コルチゾール)が放出され、身体症状が誘発されることがあります。
・逆条件づけと注意の集中
「薬を飲むと副作用が出る」と過去に経験していると、その期待が身体に反応を引き起こします。また、自分の体調に過剰に注意を向けることで、通常なら気づかないような小さな身体感覚(軽いめまいや吐き気)も「異常」と認識しやすくなります。
・予測による生理的変化
ノセボ反応では、脳が「痛みや不調が来る」と予測するだけで、実際に痛みを増強する神経ネットワーク(たとえば島皮質や前帯状皮質)が活性化し、本当に苦痛が生じることがあります。
【共通する脳のメカニズム】
前頭前野(期待や予測)
扁桃体(恐怖・不安の処理)
脳内オピオイド系(痛みの抑制)
ドーパミン系(報酬と動機づけ)
これらの脳の領域や神経系が、「心の状態」から「身体の状態」へと影響を及ぼす経路を形成しているのです。
【補足:現代医学における意義】
プラセボやノセボ効果は、臨床試験で新薬の効果を判断する際に、治療の純粋な生理学的効果と心理的効果を分離するために必ず考慮されます。また、医師や医療者の言葉が患者の症状や経過に影響を及ぼす点でも重要です。
【心(思考と感情)と身体のつながり】
プラセボやノセボ効果は、「思い込み」という言葉だけでは片づけられない、脳と身体の密接なつながりを示しています。期待・信念・不安といった心の働きが、脳内化学物質の動きや身体の感覚に影響を与えうることは、心身一如の理解において極めて重要な鍵となります。プラセボ効果を通じて、ある程度「自分で身体を修復する」「減量する」「若返りのような生理的変化を促す」といったことは可能な側面があると言えるのかもしれません。ただし、それは「万能の自己暗示」ではなく、脳と身体の限界と協調の中で働くものだろうとは思っています。
私は以前からこの、プラセボ効果、ノセボ効果にはひじょうに強い関心を持っていました。こういった効果が出やすい人、出にくい人がなぜいるのか?また、どのような状況でこういった効果が出やすくなるのか?または出にくくなるのか?などがもっと分かるようになれば、もしかしたら自分の身体にも意識的に起こす、または避けることができるのかもしれません。心(思考や感情)と身体のつながりをあらためて自覚し、統合させていく。そういった観点で、もう少しこの現象について考えを深めてみたいと思います。
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