「ただいま。お留守番 ありがとう」


「ママ おかえりなさい」



おかあさんは 直ぐに

夕飯の支度に 取り掛かる。


スーパーから 一個だけ 買ってきたボクを
 
まな板乗せて

トントントン。



切れ味わるい包丁で

トントントン。




ほら…やっぱり。

おかあさん、ボクを選んだからだ。

おかあさんの目から 涙が出て来たよ。


本当に 古株タマネギのボクで良かったの?

子供たちも 心配し始めたよ。




トントントン。

「 ママ? どうして泣いてるの? 大丈夫?」



トントントン。

「大丈夫よ。 タマネギ切ってるだけだから」



トントントン。

「タマネギ切ると 涙が出るの?」



トントントン。

「そうよ。 古いタマネギだし、この包丁も よく切れないしね」



トントントン。

「ふ〜ん…。よく切れない包丁で タマネギ切ると、涙が出るのかぁ。そっかぁ。ママ 悲しくて泣いてないのなら 良かった!」



トントントン。

「心配してくれてありがとう」




トントントン。  トントントン。





あ…今…。

おかあさん、ボクのせいにして

子供たちに ちょっとのウソを ついた?



だって…ほら、おかあさんの…。


肩が 震えてる…。

声だって 震えてる…。

涙だって たくさん たくさん 溢れてる…。




トントントン。トントントン。


ああ そっか…そうか…そうだったんだね。


ボクが選ばれた理由…。


おかあさん

泣きたいことが あったんだ。

悲しいことが あったんだ。


子供たちには

笑顔のおかあさん で いたいから。

元気なおかあさん で いたいから。




トントントン。トントントン。



どうか…おかあさんの ほんとの涙が

ボクで 隠れますように…。






おしまい ( ◠‿◠ )


〜*〜*〜*〜

時間を割いて 読んで下さり
ありがとう(^人^)

kaokao