昼休み、窓の外の雑居ビルを見ていた。
今日のランチは、一人だった。
今後のことを、ただ考えていた
「塔子さん、お帰りなさい。みなさん、早いですね」
「どうしたん、今日は一人なん?」
パーテーションから塔子さんが顔を覗かせる。
夏子は、ぽつりと言った。
「江戸時代には年貢を納めなかった者は、市中引き回しの刑やったって聞きました」
「どう、思います?」
くすくすと笑いが起きた。
「なっちゃん、昼休みに何考えてんの」
「今でも税金は、ちょっと忘れただけで加算税やら延滞税ですやん。それやのに.....わたしには何もなかったんですよ」
「ほな、何を忘れたん?」
夏子は真顔で言った。
「ウチの人、わたしの誕生日を忘れたんです」
塔子さんがコーヒーカップを置いた。
「ほな、条文つくろか」
夏子は、ゆっくり読み上げた。
「第一条 一度目は口頭注意。
第二条 うっかりミスの場合は、バラ一輪を買い、思い出の写真を整理すること。
第三条 本気で忘れた場合は、『忘れた理由及び私より優先した事項』を八百字程度で述べよ。期限内未提出の場合、市中引き回しとする」
「被疑者は?」
夏子は、少しだけ間を置いた。
「......わたしです」
「え?」
「忘れられても、何も言わへんかった。申告漏れです」
昼休み終了のチャイムが鳴った。
誰も引き回されないまま、麗らかな午後が始まった。
