中学校の教員として12年間、従事してきた。

中学生というと今後の進路に大きく影響を与える年代である。

初任の頃から考えれば、

当時中学生だった生徒も今では立派な社会人になっているはずだ。

 

世間では、「ゆとり世代」「Z世代」と言われて、

新社会人となっている若者を多く見てきた立場から言わせてもらうと、

教員と、新卒を向かい入れる人事部やその後の管理職、

組織は違えど、課題は同じ。生徒・新卒を一人前に育てるということ。

 

教師として勤務した12年間を振り返った際も、やはり

最も難しい仕事として印象に残っているのは、生徒を育てるということ。

 

中学教師の仕事は、もちろん勉強を教えることを期待されている。

保護者から見れば、高校受験など進路に影響を与える立場として、

期待は大きいのも分かる。

 

しかし、勉強以外でも、社会的自立心や、相手を思いやる社会性など、

ヒトとしての成長を担うのも学校という環境である。

 

基本クラスに教師は1人、生徒は40名と、1対40の構図だ。

クラスにいる40名は一人ひとり個性があり、

育ってきた環境や性格はそれぞれ。

「こう接すればうまくいく」というマニュアルがないだけに、

教師の多くは、この1対多勢の意思疎通、コントロールに頭を悩ませる。

 

企業組織で考えれば、いきなり中間管理職として

部下を40名見るという状況と同じだ。

教師と企業の管理職は、業界は違うにしろ

悩みは同じだなと実感する瞬間である。

人材育成に関して課題感を持っている人は多いはずだ。

 

昨今は、教師も保護者の目が厳しくなり、

生徒を厳しく指導できないというジレンマを抱えている。

民間企業でも構図は同じで、新卒をはじめ部下に対して

パワハラ、セクハラに過剰反応し、厳しく指導できない管理職が多いという。

 

「褒めて育てる」が、昨今の人材育成のトレンドとなっている。

しかし、「すごいじゃないか」「よくできているね」と褒めても、

成長している実感がお互いないという話をよく聞く。

では、褒めて育てる方法で陥りやすい過ちはどこにあるのだろうか?

 

 

「褒めて育てる」の落とし穴① 

過剰に忖度する部下が生まれてしまう

 

褒めるという行為には時として、

上司の主観や都合が色濃く反映される。

それが繰り返されると部下としては、

「何をすれば褒めてもらえるのか」に過剰に意識が向き、

褒められるための行動をとるようになってしまう。

 

私自身の教員時代を振り返ると、無意識に

そんな生徒を育てていた時期があったように思う。

例えば授業中に、こちらが望むような内容の発言をした生徒には

「いい発言だね!」と返答したり、

鋭い発言のみを黒板に書いたりといった感じである。

 

そうすると次第に、授業中発言する生徒が限られてきたり、

どんな答えでも構わない質問に対しても、答えを探しだす

生徒が増えたりしてくる。

 

今思えば反省になるのだが、こちらが無意識に

「こうあるべきだ」というレールを作り、

そこに生徒を乗せようとしていたのだと思う。

 

 

「褒めて育てる」の落とし穴② 

褒められないことはしなくなる

 

人間誰しも得意な分野があれば、不得意な分野も必ずある。

(私自身も、授業や部活動指導は非常に得意な分野だったが、事務仕事は苦手だった。)

 

当然得意な分野は褒められる頻度が高くなっていくものだが、

そうすると人間の心情として、

褒められた経験のあるものに執着するようになっていく。

 

中学生はある意味非常に素直なので、褒められないことには取り組まず、

いつまでたっても弱点克服につながらないということがおきてくる。

 

もちろん社会人と中学生では発達段階に大きな差があり、

まったく同じようなことがおきるわけではないが、

新社会人の困った課題で、「指示がないとやらない」、「やりたいことだけする」などが出てくる。

 

人間の心理として「褒められることに積極的で、

褒められないことには消極的になり取り組む意欲が薄れる」

ということが言えるのではないだろうか。

 

 

〇解決のポイントは「認める」こと

私自身が生徒を育てる上で最も大切にしてきたのが、「認める」ことである。

 

例えば、テストで高得点を取った生徒がいたとして、

「〇〇点取ったなんてすごいね!」

は結果を褒めたことになるが、

「テストの日まで、毎日勉強していたね」は過程を認めたことになる。

 

「認める」は生徒が「この人に常に見てもらっている感覚」

と言い換えられるかもしれない。

面白いもので、その生徒をじっと観察し、

「今日はクラスのためにこんなことをやっていたね」と声をかけると、

そこにやりがいを見出し、継続して取り組んでくれる生徒が非常に多いことがわかる。

 

認めるという土台がしっかりしていることで、

褒めるにしろ叱るにしろ、その効果は何倍にも増していく。

「自分の考えを理解してくれている」、「行動を見てくれている」という

心理的安全性の安心感が信頼関係を育み、

自立した生徒を育てる原動力になっていく。

 

それは、「ゆとり世代」「Z世代」でも、同じことだと言えると思う。

 

新卒など人材育成に課題を持っているという人は、まずは部下の行動を注視し、

やったことを認めるということから始めてみてはいかがだろうか。

 

もちろん初めから上手くいくものではないし、

時間がかかることだと思うが、

私の経験上、これが一番効果が高く、確実だと思っている。

上司をはじめ職場のみんなに認められ、本人も上司・先輩、同僚を認める。

そんな職場であれば、確実に部下や新卒は優秀な人材に成長していくはずである。