①「少年時代」

 

この物語は、携帯電話やポケベルさえ無い頃の、
昭和と云う激動の時代が終わろうとする頃のお話である。

そう大体の家に、シャケを咥えた熊の木彫りの置物が、
テレビの上に飾られていた・・・
そんな時代の遠い記憶の物語である。

あの日、あの時の出来事を後世に残すべく、
ココに記する。




そう、あれは私が小学生の頃だ・・・
今でも詳細に覚えている。

まるで昨日の出来事の如く・・・

小学校の見学旅行でのことだった。 

地元にある生活に身近な飲食・工業品の会社を見学して、
数日後、社会見学の内容や感じた事を発表しなければいけない。

楽しみなイベントでもあり、
クラスの結束感を体験出来る一大イベントである。
 

我々は早々に、クラス内の点呼と班ごとに集合し、
今日の見学の内容を確認しながら、
一路目的地をめざしてバスに乗り込んだ。 


・・・と言っても学年クラスが最後のクラスだったので、
バスの出発も最終発車となった。



私はやや前方の席で、隣にクラスでお調子者の安川君が座った。
少しテンションの高すぎる彼に閉口しながらも、 
バスの旅は快調に進んで行った・・・。 


しかし、バスに乗って10分位の時間が過ぎた頃には、
安川君はさっきまでのハイテンションが、
ウソだったかのように静かになり、
何か神妙な顔つきに なっていた。 
  
「車酔いか?」 
 私は聞いてみた。 

「うん、ちょっと酔ったみたい。」 

「先生に言おうか?」 

「いや、大丈夫、言わんといて」 
  
「そうか、また気分悪くなったら言いや。」 
  
「うん。」 

まぁ彼が大丈夫だと言うのだから、それ以上何もできない。 


私も彼の車酔いにつきあって、
せっかくの楽しい修学旅行を台無しにしたくない。

そんな権利も悪だくみも毛頭なく、
彼を放って他の友人らとの会話を楽しんでいた。 



つづく

20200112