鉄道事故の鉄道会社向けの保険は遺族にとって意味あるものになるのか | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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http://www.yomiuri.co.jp/economy/20160827-OYT1T50054.html
 まだ東京海上日動火災の販売するこの保険の約款がないのではっきりしたことはいえないが、鉄道会社が被る損失を損保会社が保険金として10億円の限度で支払うというものらしい。
 http://www.jishiizoku-law.org/p_train.html
 鉄道会社が被る損失には、復旧人件費・修理代・運休した電車料金の払戻・バスなど代替輸送の手配、さまざまな項目がある。
 これまでは、鉄道会社は、その損失を鉄道事故の発生原因をつくった人の遺族に請求したりしなかったり、請求を受けた遺族は相続放棄で義務を免れればよいが、持ち家があって相続放棄するわけにいかないケースもあったようだ。
 
 この新しい保険は鉄道会社にとっては、損失の取りはぐれをなくす意味で明らかにメリットがある。
 ただ、損保会社が求償権放棄特約を付していない限り、遺族にとっては請求者が鉄道会社から損保会社に代わるだけで、意味はないに等しい。むしろ、損保会社としては、相続放棄など回収不能がハッキリしない限りビジネスライクに請求を講じる機会が増えることが危惧される。
 もし求償権放棄特約を付する余地がある保険だとしたら、鉄道会社はぜひその特約に加入してほしいものだ。

請求権放棄特約・・・運送業など運送料に見合わない高額の商品を運ぶことが多い契約類型でよく利用されている。
 例えば、横転など運送会社のミスによって、トラックに積み込んだ1億円の美術品が破損した場合、運送会社は荷主に対し美術品の損害を賠償する義務がある。
 運送会社が積荷の賠償保険に加入していたら、荷主に対し損保会社がいったん美術品の損害に相当する保険金1億円を支払うが、同時に損保会社は荷主から運送会社に対する1億円の損害賠償請求権を取得する(これを保険代位という)。
 もしその損害賠償請求権を損保会社から運送会社が行使されたら、あまりにも高額のため運送会社が一発で倒産しかねない。
 遡って、運送会社がそもそも高額な美術品の運搬自体の引き受けを拒絶しかねない事態がありうる。
 そこで、運送会社が加入する保険にあらかじめ請求権放棄特約を付しておくことで、仮に損保会社が荷主に保険金を支払った後も、運送会社は損保会社から保険代位による求償権を行使されることを防ぐことができる。

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