SLAPP訴訟に対する法律上の規制がないままなのは如何なものか | 福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ

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 冒頭に言及しておくが、ブログで紹介する裁判がSLAPP訴訟に該当するものと私が断言することはしない。もしかような断言をすると、私自身がSLAPP訴訟を起こされることになる。法律家にすらこう思わせるところにSLAPP訴訟の言論の自由に対する萎縮効果がうかがわれる。
 なお大きめの字になっている箇所はリンク記事です。

 SLAPP訴訟の包括的定義やその招かざる効果はこちら

WIKIPEDIAなりでSLAPP訴訟にあたるのでは?と挙げられている数例
■7億円の賠償を求めて山口広弁護士を提訴したのは、幸福の科学による批判的言論威嚇にあたると100万円の賠償を命じた東京地裁2001/6/29判タ1139号184頁
■5000万円の賠償を求めてオリコンがフリージャーナリスト鳥賀陽弘道を提訴、オリコンの請求放棄により終了したオリコン事件
■5500万円の名誉棄損による賠償を求めて投資ファンドが、研究論文と労働委員会への鑑定意見書を作成した野中郁江明治大学教授を提訴、東京高裁2014/11/12にその請求を棄却した野中事件

ネットでSLAPP訴訟と受け止めて闘っていると被告が挙げている数例
埼玉 と鹿児島で自治体に 障がい者の虐待を告発した施設職員が施設から賠償請求を受ける
長野県伊那市 で太陽光発電所の設置会社が6000万円の損害賠償を求めて住民を訴えたが、長野地裁伊那支部2015/10/28はその請求を棄却し、逆に住民に50万円の慰謝料を支払うよう命じた
プロボクサー亀田兄弟 からフリージャーナリスト片岡亮が2000万円の損害賠償を求めて訴えられる、判決は2016/1/27の予定
□(被告は文芸春秋と大企業ながら)フリージャーナリスト横田増生の「ユニクロ帝国の光と影 」という本に対し2億2000万円の損害賠償を求めてユニクロが提訴。ユニクロの全面敗訴が確定。
 
 まだまだあるはず。先ほど探しただけでこれだけヒットしたのだから。
 現行法では裁判を受ける権利があり、提訴時点で一見明白にSLAPPだから受理しないと裁判所がはじくわけにはいかない。裁判所が法律上の根拠無く提訴する権利を否定するのは、一種の自己否定でもあるわけだ。
 とすると、SLAPP訴訟に対する規制は司法解決に頼るのは限界があり、立法解決しかないと思っている。
 なぜなら、これを裁判官が規制するには裁判を受ける権利が憲法上の権利である以上、具体的な立法措置がないと、裁判官は安心して司法権を発動できないからだ。

 立法措置の例としては、例えば、裁判所が被告からSLAPP訴訟であるとの指摘を受けた場合は職権で本案審理に入る前にSLAPP訴訟ではないことの疎明を原告に求めることができるものとし、その疎明がなされたと裁判所が中間的に判定するまでは本案審理に入らない訴訟指揮を許容するとか、裁判所がSLAPP訴訟であると判断したときは決定で被告に対し慰謝料の他に費用の疎明をもって弁護士費用などの実体的損害を支払うことと、再発防止のために被告への陳謝措置の公表を命じることができることとか、そういうことが考えられる。

 SLAPP訴訟についてはまだ日本向けの学者による論文もなければ、日弁連が人権大会でこれをとりあげたこともない。
 とにかく個別的な裁判での解決のみに委ねていては、SLAPPをおそれない提訴が増えて、萎縮効果が甚だ大きすぎる、国会の早期英断を望む。
 そして日弁連はSLAPP訴訟とおぼしき訴訟の原告代理人に就任することが品位を害する 懲戒事由になるのか否かを検証し、しかるべき見解を公表しないとヤバい状態が広がるだけだと危惧するのだ。
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