いかにものヤクザのおじちゃんは、木刀を構え、アゴを少ししゃくり、
「お前ら、そこに並べ」
静かにそう言った。静か、というのがより不気味で恐怖であった。
いちおあたいが年長者なので(2号だけど)、ヤクザのおじちゃんから一番近いところに立ち、それから隊長・カネコと続いた。
四年ほど前のある時期、散々ヒトから殴られ蹴られ、暴力や痛みというモノにすっかり慣れ、マヒしていたあたいであったが、そんときはさすがにけっこうビビっていた。
いくらなんでもアタマかち割ったりしないよなぁ。竹刀じゃなくて木刀だしなぁ。おなかとかモモなんかもイヤだなぁ。せめてケツがいいなぁ。

ヤクザのおじちゃんは案外優しく、望みどおり、しかもあんま強くもなくあたいのお尻を木刀で叩いた。
あたいは心の中で安堵のため息をついた。
だがしかし、二番目の隊長は、叩かれた瞬間、
「イテっ!」
と言いやがった。
ヤクザのおじちゃんが、
「あっ?」
てなったんであたいはすかさず、
「シーっ!」
つって、人差し指を口に当てた。
刺激を与えたらイカンがな。
そして、無事(?)カネコも優しい尻ペタをくらい、
ヤクザのおじちゃんに、
「もううるさくすんなよ」
と念を押され、我々は、
「はい!わかりました!」
「すみませんでした!」
素直に謝罪し、おじちゃんが去ったあと、
えへへへ、とか笑いながら、
寮へと戻った。

…次の日の大掃除が、
めっちゃタイヘンであった。

おしまい。