紫耀「じゃあ行ってくる。」

かんな・はると 「いってらっしゃ〜い」

紫耀 「かんな・はると。ママの言うことちゃんと聞くんだぞ。」

かんな・はると  「はあ〜い。」  そう言うとバタバタとリビングに走っていった2人。

紫耀 「今日は打ち合わせが入ってるから遅くなる。」

美桜 「分かった。 晩御飯はどうする?」

紫耀 「多分、打ち合わせの時に食べるからいいよ。」

美桜 「分かった。 仕事終わったらLINEして。 お風呂沸かしとく。」

紫耀 「ありがとう。 じゃあ行ってくる。」

美桜 「行ってらっしゃい。」

一瞬、下を向いたと思ったら軽くKissしてきた。その後2人ともクスッと笑って… 紫耀は出かけて行った。


紫耀と結婚して3年…

3歳になる娘の叶渚と、1歳になる息子の陽斗との4人暮らし。

紫耀はとても子煩悩で家にいる時はずっと子供達と一緒にいる。

紫耀とは幼馴染。 生まれた時から一緒だった。 お互いの両親も仲が良く、家族ぐるみの付き合い。

どこか行く時は必ず紫耀の家族と一緒に行っていたし外食するのもよく一緒に行っていた。

ずっとこのまま一緒にいれると思ったのに…

紫耀が芸能界に入ることになって東京へ行くことになった。2人が高校生になった頃…

紫耀がデビューした。

昔から器用で頭も良くて何をやらせても完璧にこなしていたし、ルックスも性格もいいからすぐに人気者になっていった…

最初はすごいなあ。くらいにしか思ってなくて…  たまに紫耀から電話がかかってきてたから寂しいとか思ったこともなかったけど。

だんだん忙しくなってきたのか電話も来なくなって。

そばにずっといて暮れていた紫耀が突然いなくなって段々心の中がポカンと穴が空いたみたいになった。

紫耀がTVにバンバン出てるのを見るたび、胸が苦しくなってきて…

紫耀のことが好きだったことにその時初めて気づいた。

でももう遠い存在の人になってしまってて…

紫耀をテレビで見るのが段々辛くなってきてテレビも見なくなってしまった。


大学生になってからもなるべく紫耀の話題から避けるようになった。

なのに紫耀への想いは全然消えなくて。 友達と遊んでいても紫耀の顔が頭から離れなくて。

別のことを考えよう。考えなきゃ。とずっと思っていた…。

それを感じたのか、最初は紫耀のことを色々話してくれていた紫耀ママも、うちのママも何も言わなくなっていた。


そんな生活が2年続いた頃…

バイトが終わって家の玄関まで来た時


「美桜!」 突然名前を呼ばれ声のした方を振り向くと

「え?!  紫耀?!」 帽子を深く被り顔を見えないようにしている紫耀がいた。

「ど、どーしたの。いきなり。」久しぶりに見る紫耀の顔に心臓がバクバクし始めた。

「ごめん。とりあえず中に入れてくれる?  バレると厄介だから。」

「う、うん…」 心臓の音が紫耀に聞こえるんじゃないかと思うくらいバクバクしている。

「あら。紫耀くん。いらっしゃい。」家の中に入るとソファーに座りながら編み物をしているママが普通に紫耀に話しかける。

「おばさん。お久しぶりです。すいません。いきなり…。」深々と頭を下げてママに挨拶する紫耀をみて

この人は変わらないんだなあと思った。 紫耀のママは躾に厳しく、私たち姉妹も沢山怒られてきた。

私にとっては第2のママのようだった。

「いいのよ。後でCoffee持っていくわね。」 久しぶりに紫耀に会えたのにいつも通りのママ。なんでこんなに冷静でいられるの💦

紫耀は大スターだよ💦   そんなことを思いながら自分の部屋に紫耀を招き入れた。

紫耀が部屋に来るなんて何年ぶりだろうか…。

子供の頃は遅くまで仕事をしていた紫耀ママが帰ってくるまでよくここで遊んでいたのに…

「この部屋に来るのも久しぶりだね。」紫耀が部屋を見渡しながら言う。

「そうだね。」心臓のバクバクがまだ止まらない。 頼む。紫耀には聞こえないで。

「あ、テニスまだ続けてるんだ。」テニスサークルのメンバーとの写真を見ながら笑顔を見せる紫耀にまたズキっとくる。

私の大好きな紫耀の笑顔。

「入っていい?」 ママが部屋をノックして顔を覗かせる。Coffeeとクッキーを置いていってくれる。

「ありがとうございます。すいません。突然きちゃって…。」紫耀が頭を下げながら言う。

「大丈夫。大丈夫。 話が終わったら声かけてね。ママに連絡するから。」

「ありがとうございます。」

ママは紫耀がくること知ってたの??


2人でソファーに座ると…  沈黙が続いた。