kan's bar
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喫煙者のなげき

「いらっしゃいませ kan's bar へようこそ。」


「奥の席、いいかね?」


「どうぞ。」


「何になさいますか?」


「ビールとナッツもらえるかな?」


「かしこまりました。」


・・・


「おまたせいたしました。」


「タバコ・・・いいかな?」


「かまいませんよ。灰皿をどうぞ。」


「あ、ありがとう。」


「最近はどこも禁煙だからね。喫煙者は肩身がせまいよ。」


「そうですね。駅なんかは灰皿を撤去してるところも多いですし、

 最近は駅周辺が禁煙区域みたいになっているのも見受けられますね。」


「そうなんだよね。

 通勤電車に揺られて、やっと混雑から開放されての一服。

 これがたまらないのにね。

 駅周辺が禁煙区域だとこの一服ができないんだもんね。

 つらいもんだよ。」


「喫煙されない方にとっては朗報だとは思いますが。」


「どこもかしこも禁煙、禁煙ってさ。

 それで税収を増やすのにまずはタバコの値上げからでしょ。

 やりきれないって。」


「そうですね。

 喫煙されるかたにとっては、これでもかっていう感じですね。」


「だからさ、のびのび吸いたいときもある訳よ。」


「当店はのびのび吸って頂いてかまいませんよ。」


「いやー悪いね」


「とんでもございません。」


「でもだよ、そのうちココも禁煙でってことにはならないだろうね?」


「わたくしとしましても、考えるところはありますが

 現在は禁煙にさせていただくことはありません。

 お客様のご要望が多々あるようでしたら検討はさせていただくとは思いますが。」


「そうか。そうだよね。

 そう考えるとさ、昔はよかったなって思うね。

 店内の雰囲気がそう思わせるのかもしれないけどさ。

 こうやって飲んで騒いでたあの頃なんて、

 店内なんかタバコの煙で白くなってたもんな。

 まともな換気なんかされてなくってさ。

 あの頃、「けむいです」なんていわれた日にゃ

 「なんだ馬鹿野郎」ってな感じだったけど、

 今じゃ逆に「どうもすいません」って謝んなくちゃならねえ。」


「それが時代の移り変わりというやつではないでしょうかね。」


「あれかね?そのうち酒もダメとかいう時代になるのかね?」


「わたくしにはわかりかねますが、そうなってしまっては

 このお店も活気がなくなってしまいますね。

 お酒を飲まれないお客様もいらっしゃいますので、

 閉店することはありませんが。」


「酒もダメなんてなったら、俺ぁ悲しいな。」


「では、今のうちに飲み貯めるなんていかがですか?」


「そうさせてもらうかな。じゃあ、ビールとナッツのおかわりを。」


「かしこまりました。」



戸惑いながらの接客

「いらっしゃいませ kan's bar へようこそ」


「コーヒーもらえるかな?」


「はい。アメリカン、モカ、エスプレッソなどご用意できますが。」


「じゃーエスプレッソで。」


「かしこまりました。」


・・・


「お待たせいたしました。」


「あ、ありがとう」


「バーテンさん?ここ長いの?」


「いえ、昨日オープンさせていただきました。

 ただ、外観も店内も昭和の香りがするのが気に入っておりますので、

 かつて経営されていた方の趣きそのままになっております。」


「そうなんだ。

 いいよね、昭和の雰囲気ってさ。

 なんか懐かしいよね、やっぱり。

 昭和ってこんな空気感だったのかね?」


「そうでございますね。

 わたくしなりに感じている昭和的な空気感をお客様にも

 感じて頂けるのはうれしく思います。」


「平成は18年、昭和は63年でしょ?年季が違うよ」


「そうでございますかね。」


「やっぱりさ、なんて言うのかな?

 親しみが感じられないんだよね、最近のってさ。」


「例えば?」


「例えば?

 そー急に聞かれると困るけどさ。

 やっぱそう感じてしまう年代な訳よ。」


「さようでございますか。

 それ程お年を召されているとはお見受けできませんが?」


「まっ、年齢はいいじゃん。

 そう感じるんだからさ。」


「これは失礼致しました。」


「いや、そうかしこまんなくたっていいんだよ。

 別に悪いこと言ったわけでもないんだし。」


「いえ、お店を構える時に心に決めたのでございます。

 出過ぎない と。

 そういうこともありまして、失礼致しました。」


「そうなんだ。

 いや、俺は別にかまわないんだけどね。

 バーテンさんがそう決めたんなら、しょうがないやね」


「申し訳ございません。」



そこまで話すとお客様は、カバンから小説を取り出し読み始めてしまった。


お客様が話したいと思ったときにお答えするバーテン これをモットーに。


キュッ キュッ キュッ


店内にはグラスを磨く音が聞こえるだけだ。



オープンでございます

「いらっしゃいませ kan's bar へようこそ

 オープン初日ということもありまして、僭越ながらご挨拶させていただきます。

 わたくし、当barのバーテンを勤めさせていただきます カンツォーネ と申します。

 いえ、カンツォーネと申しましても生まれも育ちも、親もまた先祖代々日本人でございます。

 カンツォーネ と呼んで頂いても カン なり カンツ なり 略されるのはお客様のご自由でございますので

 わたくしの方と致しましても、喜んで承ります。


 ご来店頂いておわかりとは思いますが、店内そう広くはございません。

 十分なお飲み物をご提供できかねることがあるとは思いますが、その節はご了承くださいませ。


 その代わりといっては何ですが、お客様がリラックスしていただけるよう努めて参りますので

 何かありましたら、どうぞお申し付けくださいませ。


 ご挨拶とは申しながら長々と申し訳ございませんでした。


 改めまして、いらっしゃいませ。どうぞおくつろぎくださいませ。」


「生ビールもらえるかな?」


「かしこまりました。」


「お客様はお車でのご来店ではございませんでしょうか?」


「いや、違うが?あー今、飲酒問題騒がれているからな。そうだろ?」


「ご推察の通りでございます。お店側と致しましても、お車の方には

 お酒をご提供させていただかないこととなっておりますもので。

 例えば、代行業者に運転を委託するから飲ませてほしいとおっしゃられるお客様もいらっしゃいますでしょうが、

 当店のシステムでは、お車でお越しのお客様に対しましては一切の酒類のご提供をお断りしております。

 お怒りになられるお客様もいらっしゃいますでしょうが、当店のシステムをご理解いただけないようでしたら

 ご縁がなかったことということでございます。


 また、わたくしの話が長くなってしまいましたね。

 秋の夜長と申します。

 どうぞ、ごゆっくりおくつろぎくださいませ。」