さて、前日の続き です。
前述の細部にピンポイントに引き寄せられたり、
思考が停滞してしまう行動は、
なにも子どもにだけ存在するわけではありません。
私がこれまでに知り合った大人の発達障害の当事者さん達も、
こうした「認知のこだわり(とらわれ)」はあるとおっしゃっていました
障害は消えてなくなるわけではないのですね。
しかし、「それは克服できないものではない」
・・・というのも大事なことだと思います。
発達障害の特性は、
本人の気づきと成長でカバーされ、
困難が解消出来る可能性があることについて、
今回はお話したいと思います。
(この記事は、こちらを筆頭 とする連載ものです。)
【視知覚認知テストからみる発達障害のこだわりの実例 目次】
さて、回答者Bさんは、今回の絵の認知で120点を獲得され、高い能力を発揮されましたが、その回答に1~2分を要したとあります。同じ回答が出来たとしても、そこに彼女の困難さがあると、僕は思います。
生活の中の認知というのは、今回のようにじっくり絵を見れる場面ばかりではありません。日常会話やメールのやり取りの中にも、「視聴覚認知」は刻一刻と必要とされる能力です。会話などにおいては、例えば一瞬の間が空くだけでも、相手に異訳されて「言外の拒否」ととられてしまうこともありますよね。つまり、瞬時の認知能力を要求されることが多いわけです。
また、今回は「写真を見る」というシングルタスクでテストを行っています。しかし、実社会ではほとんどの場合、「見る」と「聴く」をマルチタスクで処理する必要があります。一度に二つのことを行うことに苦手のある当事者さんにとっては、更にハードルが高くなるわけです。
発達障害の方の対人関係の障害には、
相手の意図や社会的意味をくみ取れないとか、
相手の表情を読みきれないなどの
抽象概念把握の苦手だけではなく、
こうした認知スピードや認知や状況判断力の差も、
深く影響しているものと思われます。
さて、まずは、なぜ当事者さんの認知スピードが上がらないかについては、Bさんご本人が詳しく説明してくださっています。
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>とにかく、全体をざっと見渡すことが苦手なんですね。
>まず「ディテールに目が行って」しまう。
>「全体を見渡す」のはその後になるわけですが、
>そこに行くまでたいてい時間切れ
>または集中力切れになる。
>(つまりディテールを見るだけで終わってしまう
>全体を見渡すことなく、終わってしまうことが多い)
>ですから、学生時代のテストなどでも、
>いつも時間が足らず、問題を解き残す
>ことが多かったです。
>定型さんのスピードには
>どうしてもついていけなかったですね。
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この「ディテールに目が行ってしまう」という部分は、前述の「こだわり=とらわれる」にあたる認知パターンです。
どうしても細部に気を取られるがゆえに、
効率的に視点を移していくことはままならず、
ひとつひとつ丁寧に精査していくことで、
ようやく全体像に辿り着くような、
認知パターンのことを言っておられるのでしょう。
大人になった彼女にしても、
こうした基本的認知特性は
息子と変わりがないことが判ります。
しかし、昨日も述べたとおり、
細部にとらわれ続けることが無い様に、
そして、周囲を見回すように気をつけることで、
絵の全体像をつかめるまで、
しっかり認知するよう心がけてらっしゃるそうです。
今回は時間制限のない問題と言うことで
「何度か全体を見回して、確認もした」
とおっしゃっていました。
【A】~【G】のBさんの認知の様子を、模式図化してみました。
続けて、この方はこのようなこともおっしゃっています。
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>でも、一応あの女の子の写真、
>用心深く、にらめっこしましたよ。
>認知レベルが上がってきたと感じるのも、
>社会に出て、ある程度経験を積んでからの
>30歳過ぎあたりから(←つい最近(?)という感覚です、
>そうして徐々に「学んできた」、ということなんです。
>つまり、(発達障害というのは知らなくても)自分は他の人と比べて、
>極端に察しが悪く、一般常識がわからない、思考回路もかなり人と違う
>ということに、(痛い目に何度も遭うことで)自覚&危機感を持ち始め、
>そこからようやく意識して物事を認知するよう努めるようになり、
>そこから徐々に「学んできた」、ということなんです。
>少なくとも20歳より前だったら、
>ちょっとわからなかったような気がします(^_^;)
>だから、生まれつき発達障害の脳みそを持っていたとしても、
>一生、常識がわからないわけではなくて、
>訓練で理解していくことはできるのですよね、きっと。
>だからやっぱり、「早期発見! 早期対策!」が大事なんですね。
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僕が、この数年間で学んだ、一番大切なところは、まさにここです。
確かに発達障害の認知特性は、生きづらさの元となるでしょう。
しかしそれは解決の道のない袋小路ではないということです。
また、定型とは違った方法ではありますが、
本人なりに試行錯誤を繰り返し、
人生経験を積んでいけば、
ゆっくりとその人なりのペースで、
当事者さんは成長し、
特性や困難を克服ていかれる
ということなのだと思います。
前述の通り、Bさんにとって、この写真を認知できる能力や判断力が身についたからと言って、それで、社会生活の困難がなくなるわけではありません。しかし、こうした発達障害の成長は生涯にわたり、続くというお話も聴きます。有名なアメリカの当事者であるテンプル・グランディン女史も、40歳前→50歳前の10年間でも、そのコミュニケーション能力や他者の気持ちをくむ力が向上していたと聞きます。(定型発達であれば、もうあまり進歩・成長の望めない年代ですよね。)
私自身も、所属した発達支援団体で、
1年ほどの間にメキメキと変わっていかれる当事者の変化を、
まのあたりにした経験があります。
この経験は、自分の子育てにおいて、
何か「ゆとり」というか「余裕」のようなものを、
与えた気がします。
親が子どもの成長を信じていくところで、
親子関係にも良い方向へ働いたように思います。
この経験は、これからも大切に活かして生きたいと、
ぼくは思っています。
今日はここまでとします。
次回は、視点を変えて、
発達障害の認知特性を
利点として活かす例についてお話します。
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