中国では、古代より人間の体内には、気の流れる系脈(ルート)があると考えられてきた。それがいわゆる経絡(けいらく)というもので、体中に張り巡らされていてる。そのうち主要な経絡は十四本あり、十四経と呼ばれる。
鍼灸治療では、経絡上のツボに針をすると気の流れが正常になり、痛みや痺れが改善する。
もちろん、中国医学だけでなくインドのヨガでも、気はプラーナと呼ばれ、古代から知られ詳しく伝承されてきた。インドでは、気の通る経脈はナディと呼ばれて、体内に72000本(無数のこと)あるといわれている。
インドでは主要なナディはスシュムナー・イダー・ピンガラの三本で、脊柱を貫いている。また、ナディはチャクラという霊的なエネルギーセンターと密接な関連があるとされる。それに対して中国医学では主要14経は連結しており、気は14経を順番に流れてゆき全身を循環するとされる。
チャクラと三大ナディ 経絡図
では、実際にそうした気のルートがあるのかといえば、体感的にはあるが、今のところ科学的には証明されていない。経絡やナディは、東洋医学やヨガの世界では自明のことだが、目に見えず機械で測定もできないので、迷信扱いされることもあるし半信半疑の人も多い。
一昔前、北朝鮮で経絡に相当する組織が発見されたという報告(ボンハン学説)があったが、結局はねつ造だったようで、その後立ち消えになった。
最近は、鍼灸学校の先生の中にさえ、科学的な治療を標榜し、気や経絡の存在を否定する人もいる。
古代のインドや中国では気の医学が発達したが、実際に経絡や気の状態が見える人が多くいたようである。現在でも経絡敏感人という人たちがいて、ツボに鍼を打つと経絡にそって気が流れてゆくかが分かるし、赤いラインで経絡が体表に現れる人もいる。
私もヨガでいうチャクラを見たことがある。
今でも気の存在が分かる人はけっこういるが、問題がないわけではない。同じ患者を見ても、人によって見えるものが必ずしも一致しないのである。例えば、複数のオーラ(中国医学の衛気)が見える人が同じ人を見た場合、個人によってオーラの形や色が異なるし、解釈も違ってくるのだ。
おそらく個人の意識のフィルターを通して見るので、違ってくるのだと思われる。
また、インドと中国でも気に対する考えは、大筋では共通するが微妙に違っている部分もある。例えばインドではスシュムナー・イダー・ピンガラの三大ナディとチャクラを重要視するのに対し、中国では、内臓と関連の深い14本の経絡が重要視される。
この違いは、悟りや精神性を重視するヨガと、実利的な中国医学の目的の違いによるところが大きいようだ。中国医学は治療面に特化しているといえるだろう。ただ、同じ中国でも、悟りを目的とした仙道ではインドの理論に近い。