Tへ

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ブラックタイガーに濯ぐ .◦☆* 。*◦*~♪

朝の6時に愛犬は起きる。

それから1時間以上サークルの中で遊んだり

いたずらをしたりして過ごしている。

朝食は8時から9時の間に与えている。

それまでどうしようかと考える。

サークルの隣で私は布団を敷いて寝ている。

朝の6時は中途半端な時間で

眠れないまま朝になってしまった時間帯でもある。

Tが倒れる心配もあり眠剤を服用していない日が多い。

だから眠れずにまどろんでいたら夜が明ける。

愛犬のハッピーは寝ている私を起こしたがって

仕切りを叩いたり水をこぼしたり

トイレシートをばらまいたりと相当ヤンチャで参っている。

怠くて体を起こせない朝は多々ある。

最近は胃が痛い事もあって動けない。

痛みに顔をしかめながらハッピーの様子を見て再び目を閉じる。

胃炎と睡眠不足と怠い身体をコントロールできない。

朝飲んで意欲の出る薬を処方されて飲んだことがある。

その後にひどくお腹を壊して怖くて飲めずにいる。

怠いながらも床やトイレの汚れが気になるのでしぶしぶと起きて

ハッピーのトイレの掃除や床の掃除をする。

足の裏を拭いてサークルから出して

1時間は部屋で走りまわらせたり遊んであげたりしている。

ペットを育てられる心情ではないのかもしれない。

何度もおもちゃを投げながら

ため息をついてテーブルに突っ伏してしまう。

Tはずっと体調が悪くて横になっている時間が長くなった。

今朝もトイレに起きてきて顔を合わせたけれど

再び寝室へ行ってしまった。

飲み物を片手に起きてきても飲んでは

逆流してしまう様子だった。

ここ数日

まともに栄養が摂れていないから車の運転も無理だった。

スーパーへも行かれずに冷蔵庫が空っぽになっていく。

食材が調達できないので

歩いて買い物へ行きサラダ巻きを買ってみた。

Tの様子からすると

とても食べられる状態ではないように感じた。

水分でさえ逆流して涙目になっている。


「ねるわ」


ボードにそう書いて再びヨタヨタと寝室へ戻って行った。

心配したところで解決にはならない。

憂鬱に沈む気持ちは一時だけにして

タロット占いをした。

占いの結果が良ければ少し元気が取り戻せる

そんな単純な自分に苦笑する。

午後に再び起きてきたTに言った。


「サラダ巻き食べよ」


即答はしなかったけれどうなづいてくれた。

Tの開口は2.4㎝だったはずだけど

もっと狭くなっている気がする。

箸でつまんだサラダ巻きを案の定、口に入れられず

ボトボトと落としていた。

特にお米は細かいから口に入らないとバラバラになってしまう。

サラダ巻きを分解してスプーンに乗せて

一切れを5回に分けてTの口へ運んだ。

食べてもらえるのであればと必死だった。

一部は落としてしまったけど完食出来た。


「冷蔵庫にカニカマがあるから食べようよ」


そう言ってカニカマ以外にもおつまみを用意したら

手づかみで食べてくれた。

もう食べられないかと心配したのに

寝たらお腹が空いたのか

あまり逆流することなく食べられていた。

玉子焼きを焼こうかと聞いたら要らないと言う。

それでもまだまだ栄養が足りていない。


「ミートボール食べよう」


うなづいてくれたので温めて持って行った。

病気をしてから、あまり熱い物は食べられない様子だった。

ある程度冷めたらフォークでつついて

いつの間にか完食していた。

アンバランスで1食にも満たない食事だけど

食べられて安堵する。

また食材を買ってちゃんと料理を作ったら食べてくれるかな。


「明日は、お刺身を食べよう」


そう伝えたら指でOKと返事してくれた。

吸入をして痰を取り再び寝室へ行ってしまった。

しばらくするとドンドンと壁を叩く音がする。

話すことが出来ないから

何かあったらそうするように伝えている。

慌てて階下へ降りて寝室を開けたら

薬何処にある?


心臓がドキっとするほど焦ったのに

そんな事でホッとした。

今日は眠剤を割って飲もうかな。

明日もTの病院があるから

しっかり眠っておきたい。

入院は嫌だとTは言う。

でも全然食べていないから心配だと伝えた。

食べる。

そう言うけれど実際は食べられなくなっている。

食事の箸やスプーンを自分で操っても

ポトポトと落としてしまう。

だから私が持ってTの口へ運んだ。

時間をかけて少しずつ咀嚼して食べられるように

続けたけれど、こんな食べ方を彼は望んではいないのだと思う。

数日前からずっと胃が痛む。

自分が元気でいないと

Tやハッピーの事を気にかけられない。

今になって食べる事の大切さを感じる。

一日一食でもきちんと摂りたい。

今日もTの顔色を見て買物には行かれなかった。

体調がとてもしんどそう。

なのにアルコールだけは飲んでいるし

ご飯食べるように伝えても嚥下障害で

中々難しいのが解る。

入院したくないと彼は言う。

それならしっかり食べて欲しいと伝えたけれど

本人の体調や嚥下障害があるから難しい。

おじやならいけるかもと言うから

肉や野菜を使って作ろうと思う。

でもカサ増しになるから栄養が足りない。

食べられないよりはマシだと思って作ろうと思う。

簡単すぎる料理だけど食べて欲しい。

Tの体調が悪そうだったから買物をやめた。

コンビニで買ってきたカツ丼を

少しずつ食べてもらったけど

嚥下障害が酷い状態でわずか4分の1位だけ口にしてギブアップ。

春先なのにまだ気管孔が乾燥して

呼吸が苦しいと言う。

そうなると食事に向き合えなくなってしまうらしい。

気持は食べたいのに飲み込めない状態。

手術して悪玉を取り去っても

多くの後遺症が残りあたりまえの日常が送れない。

食べたいと思う気持とは裏腹に

身体がスムーズに飲み込んでくれない。

だから食べては唾液が逆流して

吐き出さずにいられなくなり

食べる事が億劫になってしまう。

こんな状態だから外食は個室でないと無理なのかな。

明け方

起きてきたTが

麦茶を片手に

ハッピーのサークルの横に座り

まどろんでいた。

声をかけることを拒むくらい

彼は辛いのだろうなと感じた。

永久気管孔になり声を失った状態で1年以上が経過した。

ほとんど笑顔を失った彼を

どうしたら救えるのだろう。

可能性はあると思うのに

凹んだままうなだれて路頭に迷うばかり。

地産地消で購入したブロッコリーを茹でた。

オムライスを作ろうかと思ったけれど

コンビニのデミグラスオムライスを食べたがるので

作るのはやめた。

食べてくれたけれど栄養は不十分だと思う。

きっと気持は食べたいのだろうと思う。

食べる時の苦痛が嫌なのだろうな。

Tの横で

デミグラスのオムライスをつまみながら

美味しい美味しいと連発してみた。

それに吊られたのかは不明だけれど

結構食べてくれた。

付け合わせのブロッコリーも食べてくれて嬉しかった。

食べたくても食べられない症状に戸惑うけれど

食べて貰えたらラッキーと思いたい。

オムライスを作ることに躊躇する。

一昨年、私が作ったオムライスを食べた翌日に

Tが一人で病院へ行き下咽頭ガンが見つかり

急遽入院してしまった。

あの時のショックがトラウマになっている。

そして今年のひな祭に作りかけた

未完成のひな祭弁当もオムライスだった。

それを完食した晩に彼は倒れて搬送され

そのまま入院してしまった。

だからオムライスが食べたいと彼が言っても

作ることに躊躇してしまう。

今夜は餃子を数個食べたきりで横になってしまった。

食べないから痩せていく。

貧血で今夜も何度もコケていた。

もう私の手には負えないかもしれない。

今週、病院があるから医師に相談しようと思う。

長い付き合いの看護師さんにも伝えたい。

Tを入院させた方がよいかもしれない。

病院で経鼻経管栄養になるのかは解らないけど

今のままでは栄養失調になってしまう。

フラフラとした足取りで動きも遅い。

目つきだけは鋭いのに

突然ひっくり返ったりするからヒヤヒヤする。

暑い季節が到来して益々食欲が低下していくのがわかる。

食べる時には夜中でもコンビニへ行って

買い食いしていた人なのに

今は一日一食も摂れていない。

口から溢れ出る唾液を吐き出しているTを見上げながら

色々と思う。

私の力では彼を救えない。

私自身が食欲が無くてきちんと料理が出来なくなってしまった。

インスタグラムも止まったまま

動画でも料理のシーンは撮れない。

心が病んでいるなと解っている。

彼を入院させてきちんと栄養補給をお願いしたい。

退院した日のTの顔色は凄く良かった。

なのに家に居ると不摂生もあり

アルコールを飲むから食べなくなり栄養失調になる。

私では無理だと諦めた。

倒れてフラフラしているTに

さっき伝えた。


「入院して栄養摂った方がいいよ。

 今のままだとヤバイよ。先生に相談しよ。」


解っているのか不明だけど軽くうなずいていた。

彼の病気で多くの難関が降りかかる。

いつもいつも嘆いている私を

低い位置からハッピーがじっと見つめている。

切なくて辛くていっぱいいっぱいだけど

ハッピーの存在は細やかな支えでもある。

入浴や吸入の介護も一切彼は断るから心配になる。

自分でやるには大変で出来ていないのに

ヘルパーさんを頼むのは嫌だという。

彼にもプライドがあるから私は強くは言えないけど

せめて栄養を摂るために

しばらく入院して欲しい。

夜、キッチンで洗い物をしていたら

大きなムカデが目についた。

この家でムカデに噛まれた事が2回ある。

それも眠っている時だった。

相当痛くて発狂しそうだった。

だからゾッとした。

退治したけどこの先も恐い。

眠る部屋を変えようかな。

Tと同じ部屋では彼が倒れるから

一緒に寝られない。

だから今はリビングで寝ているけれど寝心地が悪い。

空いている部屋を片せば良いけれど

物が溢れていて困っている。

でも夏は暑いから今のまま過ごそうと思う。

リビングに冷風機があるからここで眠れば涼しい。

ただ虫が本当に恐い。

家のあらゆる隙間から侵入してくる。

Tのいる田舎に住んで数年経つけれど

未だに逞しくなれない臆病な自分を感じる。