カ「っかしーな・・・全然いねぇぞ。」
走りながら探したから、どこかですれ違ったのかもしれない。もう数メートル先の頂上にいなければ、その線は強そうだ。
まったく、出会った当初は従順な狐だと思ったが、その溢れんばかりの好奇心のせいか、勝手な行動も時々目にするようになった。まあ別に九尾だし、私よりも生命力は強いだろうから大丈夫だとは思うけどさ。とはいえ知らんぷりして見捨てられるわけがない。
カ「あ、いた!」
カサドルの声で前を向く。うん、確かに。ぱあっと開けた広い土地に、レアンはそこにいた。
「レアン!」
足がフラフラになりながらも、頂上にたどり着いた。レアンはルーチェの少し手前にいる。
「レアン、ここにいたの。ほら、濡れるといけないから帰るよ?」
そう言って近づく。しかし、カサドルに手を引かれ、それ以上先に進むのを止められた。
「どうして?」
小声で聞く。カサドルも小声で耳打ちしてきた。
カ「見りゃわかるだろ。あれは人が首を突っ込んでいい雰囲気じゃねえ。ルーチェと対等に話してるんだ。あの狐・・・ただもんじゃねえな?」
「・・・!」
私の背中の傷に気づいたカサドルのことだ。きっと、私よりもレアンのことを察しているんだろう。私はレアンのことを九尾で、そこそこ妖力が強いと思っているけど、カサドルの反応から察するに、もしかしたらそれ以上かもしれない。
レアンが何を言っているか、私にも分からない。何も話していないのか、きっとそうではないんだろう。カサドルの言うとおりグリフォンの言葉を話しているのかもしれない。
すると、ルーチェは突然レアンに背中を向け、奥の小屋へ入っていった。カサドル曰く、リージが作ったルーチェの家だそうだ。下の村よりもよっぽど立派に作られている。
レアンは慌てて走って後を追うが、ルーチェはばさっと羽を広げ、それを阻止した。
小さなレアンの背中に、雨が強く降り注いだ。
カ「で、本当はお前ら何者なんだ?もう言い逃れはできねえぞ?」
今度はレアンを連れてちゃんと村に戻ったあと、カサドルにきっちり説明するよう言われた。レアンはさっきの出来事のせいか、ずっとムスっとしている。
リ「無理にとは言わんが、村の危機は避けたいのぉ。」
おじいさんに困ったように言われたら、そりゃあもう言うしかないでしょう。
私は散々迷った挙句、「他の人には絶対に言わないこと」を約束して正体を明かした。
「私は生まれは冥界で、小さい頃はそこで母と暮らしていました。でも、母を亡くしてから色んなことがあって、人間界に逃げました。その時記憶は失っていたんですが、ちょっとした出来事から幼少期のことを思い出し、人間界に隠れ続けられるか心配になったのと、もしかしたら冥界で暮らすかもしれないということから、他の世界を覗いてみたいという気持ちもあって・・・魔界に来ました。」
我ながらむちゃくちゃな言葉を話しているな。本当にちゃんと伝わるだろうか。
カ「人間・・・」
リ「・・・そうか。どうりで神の気配も分からんわけか。」
「すみません。」
特に私は日本人だから、神様に対する信仰心なんて微塵もなんて言ったら罰当たりだけど、それくらいない。
リ「じゃあ、その宿している魔はなんなんじゃ。」
カ「え?それは背中の傷だろ、じいちゃん?」
もしかしたら、この老人は、リージは最初から私のことが分かっていたのかもしれない。分かっていた上で、あえて泳がせていたか。背中の傷なんて口実で、本当は最初から・・・。
リ「ルーチェがお前さんに怯えておった。カサドルの話を聞くに、狐に対してではないじゃろう。グリフォンを凌ぐ力が、お前さんにあるということじゃ。」
グリフォンを凌ぐ力?魔を宿してるって言ったらそりゃ瞳しかないけど、この瞳がグリフォンを凌ぐ?そんなわけある?
「私にはそんなに強い力・・・」
リ「なら自分で気づいておらんのじゃな。本当に、小さな力もないのか?」
リージが顔を覗き込む。それが、必然的に瞳を覗かれているように思えて。
さ「瞳、が・・・」
思わず口に出していた。
カ「瞳?」
「瞳が、宿っているんです。魔の瞳って呼ばれる、よく分からないものが・・・。」
リ「魔の瞳・・・」
「でも、そこまで強くはないし、ましてやグリフォンを凌ぐなんて・・・!」
私が必死なくらいに否定するが、リージはまだ冷静に分析を続けていた。
リ「・・・ルーチェがあの時大雨を降らせたのは、お前さんを遠ざけるためじゃと思っていたが、もしかしたらお前さんの視界を悪くするためじゃったかもしれんのぉ。」
「え?」
リ「見えるんじゃよ、その手の力が。ルーチェは神の使いじゃから、その見抜く力も強いじゃろう。お前さんの潜在能力は、お前さんが思うよりずっと、強いかもしれん。」
それを聞いて少し体が震えた。最近コントロール出来るようになってきたと思っていたが、もしかしたら私がコントロールされていたのかもしれない。
今度暴走したら・・・あの時よりはずっと力が強いから・・・本当に、何が起こるかわからない。
レアンは何とも言えない面持ちで、私を見つめていた。
その夜、私は久々に悪夢にうなされた。
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