花音はお月様が大好き


勿論、太陽の光も好きなんだけど
果てしなく続く暗闇の中で
一人思い悩むことが多かった花音はね
いつも月の光に助けを求めてたんだ


だから、月の光を見ると
色んな事を思い出して悲しくなるけど
何だか心が落ち着きます


花音は月の子ども


月の綺麗な夜にだけ 
歌を歌う月の子ども


月の見えない夜は 
歌を忘れてしまう


花音は月の子ども


鬼束ちひろ「月光」



花音が小さい頃の父は
八百屋さんをしていました


お店は自宅と離れていたので
父は、午後9時過ぎに帰宅して
仮眠を取った後
夜中に起き出しては
市場に仕入れに行ってました


花音は
父が働いている姿を見るのが大好きでした


土日も休みなく働く、その父の姿を
少しでもたくさん見ていたくて
夜中に起き出しては
市場に一緒について行っていました


本当はいけないんだけど
軽トラの荷台にマットを敷いて貰って
その上にゴロンと寝ころんで
星空と月を見ながら市場へ向かう


夜中なので
聞こえるのは、走る地面の音と
車のエンジン音だけ


目に見える世界は
こぼれ落ちそうな星と
冴え冴えとした青白い月だけ


と・・・どこかで微かな歌声が聞こえる


誰が歌ってるんだろう・・・


耳を澄ましてみて初めて
自分が口ずさんでることに気付く


何の曲なのか解らないけど
小さい頃から何となく口ずさんでる
誰も聞くはずのない歌を
繰り返し繰り返し歌い続けてる


夜風に吹かれて
冷たくなった涙が耳を濡らして
月だけじゃなく音も滲んでいく


誰かが
「もっと聞かせて」
と、言ってくれた気がしたけど
きっと、空耳でしかないよね


そのまま
星と月に見守られながら
花音は夜の闇に溶けていく


REBECCA 「MOON」



日々成長していき
花音はどんどん大きくなっていくのに
いつまでも月には手が届かない


居場所がなくて
悲しくて
辛くて
本当にチカラが必要な時に限って
雨夜になってしまう


降り続く雨と共に
花音も悲しくなって
月を想い歌い始める


ふと雨音の隙間に耳を澄すと
「もっと聞かせて」
と微かに声がする


ごめんね
ずっと
待っててくれてたんだね


自分の辛さにばかり囚われて
あなたがいてくれたことに気付かなかったよ


一人じゃないことが嬉しくて
いつかどこかであなたに巡り逢え
た時に
すぐに私なんだと気付いて貰えるよう
来る日も来る日も
月に向かって歌ってたよ


でも
いつしか声も途絶え
花音は待ちくたびれて
歌を忘れてしまったよ


私はずっと
忘れたその歌と
あの呼び声を探してたんだ
 


1人で歌うのは
もう嫌だよ



青白い月の光に照らされた
私は月の子ども


もう迷子にならなくても済むように
しっかり手を繋いでて


月の光に照らされながら
子供のように
丸くなって一緒に眠りにつこう


1人で歌うのは
もう嫌だよ


Chara「やさしい気持ち」