「ああ・・ここで4人で過ごす予定にしていたんだが、馬を運ばせようと電話をしたら、アーサーが出てね。ガールフレンドを連れてくるかも知れない。賑やかになるかもしれないが、ころ合いを見計らって、追い返すよ。悪いね」


「馬を?」


「気晴らしに、良いだろう?この辺りは、いいコースもあるし、水の綺麗な場所もある。一緒に探索しよう。」


「ええ・・・・有難う。馬に乗れるのは嬉しいわ」


「亜莉亜に、すねられそうだけど」
アレクは、そう言いながら、ノックより先に人の気配を感じてドアへと歩みよった。
そうか・・・・・・・ここの床はきしむから、人の足音がわかるのね・・・
男性の使用人が、ワゴンでカクテル類とオードブルを運んできた。
春蘭達の、女性スタッフは、流石に休んでいるのだろう。
使用人が出て行ったあと、カクテルグラスで軽く乾杯をして飲む。
程よく冷えていて、美味しい。


「アレク。」


「なんだい?」


「率直に聞くけど・・貴方、レオンと恋人同士なの?」

アレクは、そのとたん、笑いだした。


「その率直さは、君の魅力の一つだと思うよ」


「物事は、シンプルに・・が、モットーよ。ね、そうなの?」

アレクは、オリーブを刺した銀のステックを取り上げ、オリーブを食べながら答えた。

「何を聞いたのか知らないけれど、あり得ないね。確かに、男子高を出てるけど、そういうのには興味はない。いや、ゲイに対しては理解はあるつもりだよ。君たちの事も。人それぞれだ。別に、僕に害が無いなら歓迎すべき事だよ。愛し合う事で、人類は平和になる」

アレクの表情は、何も変わらないけれど、その言葉は嘘だ・・・と、直感した。
なぜだかは分からない。
だけど、隠したという事は、私に知られたくないという事。
追求しても『無駄』だ。
本題に入ろう。


「そう・・さっきの忠告だけれど、レオンが、亜莉亜に妙な入れ知恵をしてくれるので、少し困っているの。アレクと恋人同士だと言ったそうよ。でも、気持ちがわからないから、確かめたい・・で、亜莉亜に協力を頼んできているらしいけれど、その協力のやり方が・・私の好みじゃないの。」

アレクは、両手を挙げた。


「解ってる。そんな事だろうと思ったよ。レオンには、僕から話をするよ。納得してもらうようにね。彼も、不安なのだと思うよ。彼も優れたピアニストだけれど、パトロンなしでは生きていけない。何かしら、確実な繋がりを求めたがる。父も支援しているが、それでも不安は消えないらしい。彼らは、他に生きるすべを、全く知らないからね。不安になる気持ちもわかるが・・・・・・君たちに、迷惑をかけてすまない。」


「まだ、何も起きてないから、謝る事は無いわ。でも、知っての通り、亜莉亜はすぐに人を信じてしまうの。それに、レオンの事を友人だと思ってる。私は、彼女の友好関係まであれこれ言いたくないんだけど・・・・・わかってくれるかしら?」

私は、さりげなく・・でも、力を込めて言った。


「ああ、解ってるよ。ここに来たのは、純粋に・・君たちに、リラックスして欲しいからだ。それは、解ってくれるかな?」

アレクは、笑顔を浮かべて答える。


「ええ、本当に感謝しているわ。」

私は、カクテルを飲み干して、グラスを置き、アレクに歩み寄り抱擁する。


「おやすみなさい」


「おやすみ、恵理」