翌日の夜の広田君からの電話。

「なあ、鶯谷に行かない?」

 

鶯谷~!!!

高校生の時、男子たちが好んで使っていた地名。

有名なホテル街ということで、つまりはそういうお年頃の男子たちの

話題に何かと上っていた鶯谷。

 

あり得ないでしょう。

結局、広田にとっての私はヤラセテくれそうな女認定ということ。

いやいや、今までの行為を振り返ると確かに反論はできないんだけど。

自分でだってあり得ないと思える姿をさらし続けてしまった。

 

まさか外の公園で、彼氏でも何でもない広田相手に

自分から腰を振ってしまったり、そしてまさか自分で自分の胸まで揉む姿まで

さらけ出すことになろうとは、自分の行動とは言え本当に我ながら有り得ない!

 

「行かない!」間髪に入れずに返答する。

・・・・沈黙。

まさか、私が喜んで付いて行くと思っていたのか?

それこそ有り得ない!

 

「・・・あのさあ、ディズニーに行かないか?」

ディズニー?それこそ意味が分からない。何で広田と行かなきゃいけないのか。

私たちのように東京の東側に住む者にとっては、ディズニーなんてそれこそ

お金が掛かるだけで、珍しくもない。

小学校卒業のあと、グループの友達同士で行くのが当時の流行りだったりはしたけれど、

余程のディズニーオタクでなければそんなに特別な場所でも何でもない。

 

ディズニーといえば、青木さん。

仕事で札幌支店から東京に訪れていた青木さんと

仕事繋がりの若手たちでディズニーに行ったのが青木さんとの初対面。

関西育ちのまま札幌に赴任した青木さんにとっては、ディズニーシーが

初めてということもあり、私たちで歓待したのだった。

 

「ディスニーに行きたいニーズはないんだけど」と私。

「うん、あのさあ、ほら女子ってディズニーホテル好きだろう?

一緒に泊まらない?」と広田。

なんで、私があんたと泊まらなきゃいけないんだ。

完全に目的がすすけて見えるぞ。

そして、私ならホイホイ付いて行くと思っているのか?

「行かない」と私。

・・・沈黙。

 

じゃあ、夕食だけでも。

バイト代も入ったし、ちょっと豪華なところで奢るからさ。

車のローンがあって、今までファミレス割り勘ばっかだったしさ。

 

なんで夕食なんだ。昼間に会おうと言わないところに意図が見えるゾ。

こういう下心がもろ丸わかりなところが、逆にいじられキャラの所以で

ちょっと軽く見てしまうところでもあるのだけど。

 

結局、次の土曜夜の場所は浅草に決まった。

さすがに、浅草今半とはならないけれど、

それでもそれなりに奮発してくれたようで、美味しい食事を楽しんだ。

浅草の夜の仲見世の雰囲気も趣きがある。

外国旅行者で夜も賑わっている。

 

二人で川沿いを歩いて行く。

スカイツリーが光り輝いている。

とはいえ、自宅からのスカイツリーの方が近かったりするんだけどね。

 

浅草側は人出で賑わっているものの、橋を渡った反対側の川沿いはそうでもない。

広田の考えが透けて見える。

人の居ない場所を探しているのだろう。

こんな事はもうやめなくてはいけない。

お互い恋愛感情で結ばれているでも何でもないのに、

ただ身体の快楽だけでこうやって会っている。

広田にしても、今度こそはという思いがあるに違いない。

前回は一方的に私だけがいってしまって終わった。

 

広田にしても、こうやって私が会っているということが既に今夜の了解と

受け取っているに違いない。

もうこれ以上、こんないびつな関係は終わりにしなくちゃいけない。

 

そう、理性では分かっているのに、勝手に私の身体は期待を始めている。

私、本当に欲求不満で溜まっているのだろうか・・・?

新たな快感を覚えた身体はこんな風に身体だけの関係でも成り立ってしまうもの?

 

皆も彼氏との最中にはあんな風になっているのものなの?

身体が勝手に醜態をさらすなんて、今振り返っても現実のことと思えない。

 

もう、こんな付き合い方はしなのだときっぱり断ると決めたものの、

人気のない川テラスで広田がキスを迫って来た時、

またしてもそれを受け入れてしまう私だった。