【県産牛肉出荷停止から1年】賠償遅れ追い打ち 新基準値超問われる管理体制 価格低迷農家苦境続く | 函南発「原発なくそう ミツバチの会」 ノブクンのつぶやき

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不安を抱えながら牛の世話をする鈴木さん


 東京電力福島第一原発事故による牛肉汚染で政府が本県に出荷停止を指示してから19日で1年が経過した。

  本県産価格は出荷再開直後よりは回復したが、東京食肉市場での6月の価格は全国平均の約80%にとどまる。風評被害などによる価格低迷に東電の賠償金支払いの遅れが重なり、生産農家は「このままではやっていけない」と窮状を訴える。一方、須賀川市と郡山市で相次いで牛肉から新基準値を超える放射性物質が検出され、生産者側の管理体制の徹底も問われている。

■問答無用
 
 「風評被害の影響が非常に大きい。いつまで続くのか分からず、精神的に追い込まれる」。大玉村の肉牛肥育農家鈴木広直さん(63)は不安を口にする。

 鈴木さんは、約50頭の牛を飼育している。牛の売値は原発事故前までは1頭100万円前後だったが、現在は60万円程度まで下がり、回復の兆しはいまだに見えない。肉質はどこにも負けない自信はある。しかし、福島産というだけで、問答無用で売値は下がる。手塩にかけて育てた苦労が報われず「むなしくなることもある」と打ち明けた。


 特定避難勧奨地点が点在する伊達市霊山町小国地区。50頭を飼育する肥育農家狗飼功さん(64)も1頭の売値が約40%減の現状に「餌代にもならない」とため息をつく。わらを保管するため建てたハウスの建設費など約240万円も経営を厳しくする。「やればやるほど借金がかさむ」と肩を落とした。


 6月の東京食肉市場の和牛の一般的品種の価格は1キロ当たり平均1659円で、県産は1322円と337円も低い。

 全農県本部畜産販売課の担当者は価格低迷について「全頭検査をして安全な牛肉しか出荷していないにもかかわらず、風評被害が払拭(ふっしょく)されていない」とし、「国を中心に本県でしっかりとした検査態勢を取っていることを全国にアピールしてほしい」と求めている。


■約束破り


 東電の賠償金の支払いの遅れも肉牛農家に追い打ちを掛ける。
 賠償は食肉市場での販売価格と基準額の差額分を東電が支払う。ただ、JA福島五連と農畜産関係団体で組織する「JAグループ東京電力原発事故農畜産物損害賠償対策県協議会」によると、肉牛農家が昨年12月以降に請求した分のうち、支払い済みは5割程度にとどまる。

 田村市で肉牛約250頭を育てている60代の男性は「東電は約束を破っている」と憤る。男性が昨年11~12月に出荷した約40頭分の賠償額のうち現在までに支払われたのは5割のみ。東電は当初、「残りは6月下旬に支払う」としていたが、遅れた理由の説明はない。

 震災後に受けた融資の返済を抱え、稲わらの購入費などの経費もかさむ。「県内の畜産農家は1年たっても苦しいままだ。国は賠償問題を東電に任せず、しっかり対応してほしい」と注文を付ける。

 二本松市の肉牛肥育農家加藤和信さん(69)は出荷再開後に40頭ほど出荷したが、賠償金の支払いは遅れ遅れだという。首都圏の仲卸業者から言われた「福島の牛は安くても東電から賠償金がもらえるのだから問題ないだろう」という一言が忘れられない。「生産者にとって『努力して良い牛を育てる』という夢が経営の大きな支え。自分の牛を正当に評価してほしい」と語気を強める。


■ひとくくり


 「同じ郡山として、ひとくくりにされてしまう不安はある」。郡山市の肥育農家の男性(45)は懸念を示す。

 今月3日、郡山市の農家が出荷した牛肉から、食品の新基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超える放射性セシウムが検出されたと発表された。厳格化前の基準だった3月以前に与えた餌の放射性物質が抜け切らなかったことが原因とみられた。

 九州などから安全な餌を仕入れ、対策に万全を期している。現在まで価格の影響はないが「放射性物質が出るのには理由がある。気を付けることは当たり前」と徹底した管理の必要性を説く。

 餌を購入しなければならない農家の負担も大きい。会津坂下町で繁殖牛を育てている農業男性(64)は、栽培している牧草から基準値以下だが放射性セシウムが検出された。風評被害を懸念し、使用を自粛した。牧草を購入する必要に迫られており、「コストがかさみ、利益も出ない。何のために育てるのか」と表情を曇らせた。


■背景


 放射性セシウムを含む稲わらが肉牛に餌として与えられていた問題で政府は昨年7月19日、本県に肉牛の出荷停止を指示した。全頭検査などを条件に8月25日に解除した。解除直後は県内で検査できる施設が郡山市の1カ所しかなく、出荷が一時滞った。その後、9月からは県が十分に放射性物質が低いことを確認した農家に限り、県外での食肉処理・検査を認めたため、徐々に県外検査が拡大し、現在では震災前と同様に出荷されている。

「福島民報」より転載