黒瀬さんの『山口の昔話』
梅雨入りが早く、その後は蒸し暑いけれどほとんど雨もなくお天気が続いているのに、新型コロナの自粛で外出は控えていた。そんなとき、黒瀬圭子さんから「お元気ですか、退屈で退屈で、この世に仕残したことはないかと本を作りました。お暇の時にご一読下さい」と添え書きして『山口の昔話』という本が贈られてきた。
A5版、厚表紙、石風社発行。表紙絵は、行動美術協会会員で下関在住、以前、下関市立美術館で個展をされたときに知り合った大鷹進氏である。あの個展で見た個性あふれる感じとは違って、淡い優しいタッチの風景にお地蔵さんがちょこんと添えてあった。
しかも、内容は決して退屈しのぎで出来るものでもなく素晴らしい本だった。
黒瀬さんは、子供たちに本の読み聞かせをするための公民館活動を立ち上げ「青山文庫」の主宰をされているが、私の最初の個展『みんなみんな本が大好き』もこの文庫活動を取材したもので、かれこれ40年前のことである。
彼女は、北九州の生まれで青春時代には口演童話家の故・阿南哲朗氏に師事されていて、下関に嫁いでから、市立図書館の作文教室に学ぶとともに、昭和56年(1981)には初めての絵本『白いナス』を出版、これは幼いころの関門海峡周辺の空襲体験を見つめたもので「戦争の理不尽さ恐怖そして家族の絆」などが書かれたものだった。その年に松岡利夫氏ら12名の執筆で『山口県の民話』(日本児童文学者協会編・偕成社)が発刊され黒瀬さんの再話になる「潮みつ玉潮ひる玉」など3編が収録されていた。『白いナス』は後に改訂版を出版したのが石風社だった。ほかにも児童文学の創作に励み『先生のきいろのパンツ』(平成5年=1993・岩崎書店)などがある。
その一方で、早くから「日本民話の会」にも所属され、山口県内あるいは下関に、民話の語り部を招聘され口演童話の実践も様々な形で開催、その実績で久留島武彦賞も受賞されている。
今回出版された物語は、彼女が児童文学同人誌「小さい旗」に掲載された「山口県の昔話」の中から副題「商人や旅人がはこんできた」とあるように、山口県の風土に根付き語りつがれてきた民話など十一編が納められている。
例えば、「シンデレラ」の話が変化した「粟福御寮(あわふくごりょう)」、さらに各所で聞かれる「お地蔵様」や「貧乏神」「タニシの姉妹」、そして「サルの生き胆」が「蛸にはなぜ骨がない」と、北浦方面で語り継がれている話などが掲載されている。
年初、黒瀬さんにお会いしたとき「六連島にはお話が聞けるような方があるかしら?」などと聞かれたが、彼女自身、あちこちと訪問して採録を続けられてもいた民話の集大成はまたにしても、こうした故郷につたわる昔話などが、読みやすい形で記録され伝承されることは必要で、今回の出版は、やはり郷土への嬉しい贈り物だった。
写真は黒瀬圭子さんの新刊『山口の昔話』
