旅の記念品(1)-カラカラせんべい- | Issay's Essay

旅の記念品(1)-カラカラせんべい-

572 羽黒山五重塔とカラカラせんべい

 弟から「今晩、民放じゃけど庄内地方の放送で羽黒山五重塔が出るそうな!」と電話があった。ずいぶん前に、弟が庄内を訪れて帰ったとき、五重塔を話題にしたことがあるので連絡してきたのである。平素、テレビはあまり見ないし、特に民放はコマーシャルが煩わしく敬遠しているので、まぁ、見る気が有ればとの情報である。
 そのテレビを見ていると、レポーター(誰だったか?)が、町はずれの古い駄菓子屋に入った。人のよさそうな駄菓子屋のご主人は、江戸時代からその店が続いている話をしながら、お菓子の話をされていたが、レポーターの目的は、視聴者からの情報で「カラカラせんべい」を探していると持ち掛けると、ちょうどその店で作っているというのである。
 私が、庄内地方を訪ねたのは、北前船の酒田市から芭蕉の道をたどって最上川、立石寺などを巡った10数年前のことである。ところが聞き覚えのある「カラカラせんべい」に、ふと思い出がよみがえった。その地方の道の駅に立ち寄ったとき、同行のものが「変わった煎餅があるよ」と教えてくれたのが「カラカラせんべい」で、これを土産に持ち帰ったことを思い出した。一緒にテレビを見ていた家内に「あのカラカラせんべいだよ!」と言ったが記憶に無いという。確かにそうだ!と思ったが、そのまま番組の最後まで、東北地方最古の羽黒山五重塔も見ることが出来た。
 翌日、当時のアルバムを家内に見せた。そこには「子供同様に、せんべいを食べるより玩具が楽しみで次々とせんべいを割って中の玩具を取り出していた」と説明に書いている。
 「カラカラせんべい」と言うのは、庄内地方に伝わる伝統菓子で、いつしか丸いままでは面白くないと、直径10cmほどのせんべいがまだ固まらないうちに、紙に包んだ「おもちゃ」を包み込み三角の山状にしたものである。製品を振ると中のおもちゃがカラカラと音を立てるのである。
 その最初のころは、鉛の兵隊さんや木の大黒様などの縁起物で、さすがに今では鉛は使用されていないだろう。おはじき、小さな御殿まり、鈴、太鼓、奴、亀のお守り、最近ではニャンコや自動車・飛行機なども入っているそうだ。私が買ってお土産にしたものには、たたまれた紙風船やコマ、そして柄が6cmくらいの唐傘があってこれがちゃんと広がり、その絵柄も素晴らしく手が込んでいたのには驚かされた。 
 外のせんべいは、黒砂糖風味の素朴で優しい甘みがあり、噛めばパリパリと割れる。しかも郷土色豊かな楽しい駄菓子である。これが出来たころ、運徳煎餅(うんとくせんべい)と言い、お正月の縁起物としても人気があったそうだ。
 この文章を書こうと思ったには、「その地方のお菓子さえ、ふとした旅の思い出になる」と、テレビを見ながら感じたからである。旅に出たとき、なにがしかの土産に時にはその地方ならではの記念になるものを買う。お菓子や漬物などは残ることもないが、玩具などの記念品は埃をかぶっている。これにスポットを当ててみるのも一興かなと考え、それらの埃を拭いながら懐旧に浸ってみようと思った。
 写真は、羽黒山五重塔とカラカラせんべい