正円寺のイチョウ | Issay's Essay

正円寺のイチョウ

42正円寺

 このところ長府城下町を散策する観光客は、国宝の仏殿がある功山寺から忌宮神社辺りのコースが主のようですが、増えていると聞きます。出来るなら、長門鋳銭所跡のある覚苑寺や長府商店街まで、範囲が広がってほしいものです。
 忌宮神社のそばを北上する商店街筋は。かって山陽道として重要な役割を果たしていた旧街道筋で、その東側には中世以降、鋳物師達が住んでいました。今も「金屋」の町名が残っています。また、西側は本覚寺、浄土寺、正円寺、法華寺、大乗寺などと寺院が続いているのです。
 山口銀行長府支店前からの商店街の辺りは、昭和22年の長府大火があったところですが、本覚寺の龍や正円寺のイチョウが延焼を防いだとの伝聞もあります。最近、歴史的地区環境整備事業として景観を意識した街路づくりがなされ、居住者の協力で呉服屋さんも薬局も、お医者さんも、寿司屋さんもと、家屋は歴史的な和風イメージに統一されて建て変わり、それでいて味のあるハイカラな、随分と美しい町並みが誕生しました。
 秋になると、私はふとこの町筋にある正円寺のイチョウを思い浮かべます。山口県の天然記念物(天然記念物)に指定(昭和44年)されていることもありますが、ずいぶん前に住職は「落ち葉が近所迷惑でねえ・・こればかりは、どうしょうもないんですよ」と、話されたのが脳裏を離れないのです。本堂前の大イチョウは、住職のそんな悩みには関りなく、毎年、多くの「葉ッパ」を輝かせては散らしているのです。
 幹は、地上約2.6メートルのところから5枝に分れ、高さは約13メートルといわれます。目通りが約8メートル。このイチョウは雌樹で、幹から「乳下垂」と呼ばれる気根が幾つも垂れ下がっているのでも有名です。
 気根というのは、地上の幹や茎から出て空気中に露出した根のことで、イチョウの場合は空気中の水分を吸収して伸張するといいます。
 樹齢約850年、県内でも名木といわれるイチョウの樹が、その商店街、旧山陽道筋の一隅にあるのです。真黄色の葉陰に、見事な「乳の下垂」を見上げて悠久の時、城下町の秋を感じたいものです。