第三章 一族の教化~帰郷~ | 雲をつかんだ日

第三章 一族の教化~帰郷~

お釈迦様は悟りを開かれてから数年後、各地での布教活動をされたのち、生まれ故郷のカピラヴァストゥへと向かいました。
その道中も、寄る所々で布教活動をされていましたから、実際にカピラヴァストゥに到着するまでには、相当な時間がかかったようです。
その間、カピラヴァストゥの城下では、「あのゴータマ=シッダールタ王子が、仏陀になって戻ってこられる」ということで、盛大なお迎えの準備を整えていました。

しかし、カピラヴァストゥに到着したお釈迦様一行は、王宮には入らず、近くの森林で露宿することにしました。
そして、日々、弟子たちとともに城下に出ては、貧富の別なく食料を分けてもらう、いわゆる乞食行(こつじきぎょう)に勤しんでいました。
それを知った、お釈迦様の実父・シュッドーダナは、血相を変えて乞食中のお釈迦様の元にやって来ました。

「そなたは宿願を果たして成道(じょうどう=悟りを開くこと)なされて、無事にご帰郷なされた。私どもはそれを喜び、宮中でお迎えする準備を整えていたのに、森林にとどまられるとは…。まぁ、それは良いとしましょう。しかし、乞食をされるとは…。我が一族は、痩せてても枯れても王族にございます。そなたの弟子の百人や千人を扶養することなど容易いこと。それなのに、乞食をされるとは、私のみならず、ご先祖様まで辱しめる行為にございますゆえ、直ちにお止めくださいませ」。

きっと、お釈迦様の元に向かっている途中のシュッドーダナは、「シッダールタよ、悟りを開いて尊い存在になったと聞いていたが、一体何をやっているのだ!お前が帰ってくるというから、宮中では準備を整えて待っていたというのに、こんなところで、ヴァイシャ(平民)のみならず、シュードラ(奴隷)からも施しを受けるとは…。お前は我が王家の血を引いておるのだぞ、乞食などみっともない真似はやめめなさい」と言うつもりだったと思います。
そうでなければ、突然やって来たりはしないでしょう。
ところが、変わり果てた息子の神々しさに、怯んだ末に出てきた精一杯の説教だったのでしょう。

しかし、これぞまさに"釈迦に説法"。

いや…違うか、説法は仏陀の教えを説くことですからね。

「なるほど、あなた様のおっしゃることはごもっともでございます。もしも、私が王位を継ぐ立場の者でしたら、王宮に入り、そこでの生活を楽しんだでしょう。しかし、私が今継ぐべきは如来としての系統であります。それゆえ、いつの時も三界(さんがい)に家はなく、托鉢(たくはつ)によって命を繋ぐのであります。かくの如(ごと)くに来たりて、かくの如くに去るのであります」。

お釈迦様はそうお答えになりました。

「三界」とは、欲界(よくかい)、色界(しきかい)、無色界(むしきかい)の三つの世界のことで、欲界は欲にまみれた我々の住む世界で、色界は欲や煩悩はないけど、物質や肉体の束縛から解放されていない世界です。
そして、無色界とは、物質や肉体の束縛から解放された、「受・想・行・識(じゅ・そう・ぎょう・しき)」という心の働きのみの世界です。
なんだか、よくわかりませんね。
わからなければ、わからなくてもいいと思います。
あくまでも方便から生まれた世界観ですから。
つまり、言いたいことは、悟りを開いて涅槃に入る以外に、安住の地などないということで、それなのに、王宮に入ってご馳走を頂き、華やかな歌や踊りに興じて、フカフカのベッドで眠ったりしたら、せっかく志を持って出家した弟子たちが気の毒だということです。

せっかく、高いレベルで野球をやりたいと思って強豪校に入ったのに、どこかのマザコンか、どこかの親バカか、どこかのメディアのせいで、練習中に30分おきに休憩を取らされるようになってしまったり、一杯走ったら危ないから、三塁打になりそうな打球でも二塁で止まることを強制されたり、ピッチャーは1イニングずつ交代しましょうとか、それを「高校球児のためだ」といっている人たちは、高校球児の声に耳を貸さない人たちなんでしょう。

しかし、シュッドーダナは、そういう分からず屋ではありませんでした。
続きは次回に譲りますが、お釈迦様のおっしゃった「かくの"如"く"来"たりて、かくの"如"く"去"る」のが、如来であり、如去(にょこ=如来の別称)なのです。

そう考えると、乞食行って、めちゃくちゃ大事なんですね。

実は私、可能な限り、三角コーナー不要生活を心がけています。

自分で自分の食事を作る時には、キャベツの芯も、ピーマンの種も、ナスの蔕も食べるようにしています。

そう考えると、ひょっとしたら、各家庭で不要となった食材を集めて暮らせば、食費をかけずに生活できるのではないかと考えています。
ただ、それをするためには、施しを受けるに相応しい人物にならなきゃなりません。
それこそまさに、菩薩道なのでしょう。



(合掌)



ご参考までに…。