ブログ連載一周年を記念し、ストーリーのまとめの為Wikiを制作しました。
こちらをご覧になれば、あらすじ等の理解に役立ちます。
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「そうよぅ。大きな奇跡を起こすたびに、平の信者一人か二人を中堅より少し上に格上げするなんて事すりゃ、面白いかもな。教団的理屈は後で真面目に考えるとして、我々が富くじ方式で、名前を書いた板を矢で刺して決めるなんてのはどうだ?」
「そんなもんでいいんじゃないでしょうか?ところでなんですが、まだ大きな奇跡って、予定されてるんですか?」
「さあぁ?こっちは上の方の言うこと聞いてるだけだからな。ただ、今回の小さな月を消したときに、なんやらよくわかんない実験をするから、その結果に合わせて、次から次に新しい実験をやり続けようなんて言ってたのを聞いたんだが……」
「え、そうなんですか、月を消すついでに実験もね……」
なるべくごく普通に振舞って答えた。
そりゃそうだろうな、小惑星の中心部にマイクロブラックホールを発生させるんだ、大掛かりなのは解る。
そのあと開いた特異点、繋がった先に一瞬感じられたダークマター。
やはり実験という事は、この後先の検証結果を踏まえて、もっと大きなことを画策してるとみて間違いない。
何をしようというのだ?
もっと大きな小惑星を消すのか、特異点が開いている時間を長くするのか、その両方か?
いずれにせよ、えげつないことを画策していることは解ってきた。
「こっちもご神事の都合ってやつもあるから、いつ頃何をするのかを早く教えておいてほしいってのは有るんだが、まああそこまで大掛かりになると、上の方も段取りを決めるのも大変って事なんだろうな」
「段取りですか?教団の方もそういう面、苦労が有るってことも、ようやくわかりかけてきましたよ」
「そうだろう?まあ、いきなり大きな神事を執り行うことになったら、信者どもには、突然神からご神託が下ったって言や、それで大概は何とかなるんだがな」
「ああ、確かに。たとえそれがほんの少し前でも、ご神託通り予言が的中するんですからね、こんな強いことは無いですよ」
「まあな。その予言が的中してくれるってのが、教団運営してくのにどれだけ役に立ってくれるか。しかしなあぁ……。上と交渉してたの、殆ど教祖だったんだが……」
「あ、今あの体たらくですからね……」
自分で落っことしてああしてしまったことは、無かったことにしよう!
「そうだ、いいこと思いついたぞ!」
もう一人いた教団幹部のジジイが嬉しそうに言ってきた。
「どうなさったんです?」
「教祖は信者どもの祈りと神の奇跡で生き返ったけど、ご神託でその英知と信託者としての能力をすべてお前に継がせたって事にしよう」
へ?
「あの……。馬鹿になっちゃった教祖は、治らないって事を前提に話してるみたいな気がしてしょうがないんですが……」
「そりゃそうだろ、逆に治るのか、あんなに頭打ってこうなっちまったもんが」
「パイロメタファシポンキャラピーー」
言いながら教祖は踊ってる。
酷いこと言われ続けてるのに無邪気にこんなこと言ってる教祖が哀れだが、まあ、多分治らないだろうな。
「それよりも、私が次の教祖で確定なんですか?教団の運営はおろか、教義すらまともに知らないんですよ」
「ああ、全然気にするな。教義なんか簡単だし、それどころか教祖が適当なこと言ったらそれが新たな聖典の一部になったりするし、素人で初々しいほうが信者どもも、支えようって気になって、結束が固まるってもんだ」
もう慣れてしまってる自分が怖いが、こいつら相当あくどいこと言ってるな。
「しかしだ、教祖の葬儀をやって、浄財を集めて、そのあと復活の神事をやって、復活した教祖がこの有様なのは、英知と知性を新教祖に譲ったからだってのが筋書きだが、いくら何でも一度はまともな状態で教祖が現れて、挨拶の一つでもしないと流石に話がうまくいかないんじゃないのか?」
教団幹部の、祭壇から落っこちて死にかかってた方のジジイが心配していった。
「今までもどんな矛盾があっても全部神の御心で強引に押し通してきた。今回もそれで押し通すまでだ」
ジジイの声、顔、態度、そのすべてに今までの経験から導き出される自信が満ち溢れていた!
「なんかできそうな気になってきました。何か聞かれたら、教義の中で知ってること答えて、解んないこと聞かれたら、しかめっ面で深く考え込んでるふりして、その場を逃げおおせれば勝ちなんですよね」
「おう、お前も解ってきたじゃないか、こういうのは実地でやってくしかないんだが、なあに、基本信者は全員味方だ、いや、崇拝者だから何を言っても正しいと思ってもらえるから便利だぞ。自信を持て、いいな」
「わかりました、もう怖いものはありません、本当に神に後押しされているような気分です」
ほんとの神様がこんなけしからんことの後押しするかって!
しかし教祖の座に収まったら、上部組織とやらに接触出来るって千載一遇の機会だ、罰当たりそのものかもしれないが、全力で取り組むぞ!
そのとき、夜の闇の部屋の外、窓を小さな力で敲く音が聞こえた。
「お、なんだ、もはや伝令書が来たのか、待ってろ、窓を開けてやる」
ジジイが窓を開けると、一匹の濃紺の大きな鳥が入ってきた。
いや、鳥とは思えない不安定な羽ばたき、夜に飛び回れる、それから察するに蝙蝠だ。
「伝書蝙蝠か。いつもながら突然だな、しかし早くも次の指令が来たか?」
ジジイが衝立にぶら下がったその蝙蝠の足の輪から、手紙を取り出した。
「あのぅ、いつもこうやって連絡が来るんですか?」
「いや、ほとんどの場合は鳩とか猫とネズミとか、そんなものだ。今は夜だからな、珍しいぞ、こいつを見られるのは」
「そうなんですね、夜専用ですか」
「気を付けろよ」
「へ?」
「そいつは血を吸うぞ」
「ギャーーーーー」