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ブログ連載一周年を記念し、ストーリーのまとめの為Wikiを制作しました。

 

こちらをご覧になれば、あらすじ等の理解に役立ちます。

 

但し、まだ制作中の部分も多々あります。

 

こちらは ↓ Wikiへのリンクです。

 

 

 

 

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 ようやく、隠れ家でも何でもない、放置された納屋だか小屋だかわからない所に着いた。

 腐りかけた板張りの木造で、板屋根にぺんぺん草と苔が生えていた。

「無事戻りました。橘右近殿が怪我をなされたと聞きましたがいかがですか?」

「ご安心くだされ、百足を生きたまま胡麻油に漬け込んだ、我が橘家秘伝の傷薬を塗りましてこざりまする」

 なんなんだーーそれはーー!

 

 

 

 確かにそれって、田舎の方に行けばまあよく聞く民間治療薬の一つだ。擦り傷、切り傷、虫刺され程度には効くらしいが、あくまでも小さな怪我だ。それに、秘伝でも何でもないぞ!

 またなんか、秘境かなんかから薬草でも取ってきて調合してるのかと、淡い期待を抱いてたんだが、全然違うみたいだ。

 軽く振り返ってみると、ハインツルドルフたちも、なんかよからぬ気配を感じて、うつむき加減で少し青くなりながらついてくる。

 一応名誉のために言っておくと、百足を生きたまま胡麻油、無い時は菜種油に漬け込んで、数か月たつと、薬効成分のあるものになる。薬事法で販売は禁止されているらしいが、自分で作って使う分には問題はない。

 百足の毒である皮下神経を麻痺させる成分が、回復力を速めてくれるらしく、切り傷、軽いやけど、あかぎれ、かゆみ、虫刺されに聞くほか、耳の中に綿棒で塗り込むと中耳炎に効いたり、鼻の中に塗ると花粉症がほんの少し軽減されたりする。

「ねえ」

「どうしたんだ?」

 グスタフイワノフがなんか尋ねたいことが有るらしい。

「百足を天日干しにして漢方薬にしたのが有ったけど……」

「ああ、傷薬じゃなかった気がするが、そういうのもあったな」

 全然違う用途だが子供は知らなくていい。牙を生で食すると死ぬらしい。

「前に言った星で、一メートル以上ある百足いたけど」

「わーー、もう言うな!」

 そうだそうだ、そんなのいた。こいつらは安全なハンビーの中にいたけど、こっちは目の前で見たんだぞ。

 そして小屋の前に着いた。一応戸はついているが、裂け目と穴が有って、まあなんとか外部との仕切りになる程度だ。

「大酋長殿をお連れしてまいりましたぞ」

 東垣弥五郎が一声かけてから、その戸を開いた。

 引き戸のはずだがその役には立たず、一度軽く持ち上げてから外すことになってるらしかった。

 粗末な土間と、雨漏りの跡がはっきりと見える板の間の上に、筵のようなものを敷き、腕と胴体に亜麻布の包帯を巻いた橘右近が、倒れている。

 包帯は茶色くなった血に染まり、その傷の深さを物語っている。

 入ってきた我々を見て、その青くなって血の気の失せた顔で、小刻みに痛々しく震えながら、気丈に上体を起こすのを、姉の彩芽嬢が支えようとしている。

 この傷で百足油塗って寝かせてるだけなのか?

「この傷で、万能回復薬飲ませなかったのか?」

 小声でエスメラルダに聞いた。

「だって、武士の矜持がどうのこうの言って、全然聞いてくれなかったのよ……」

「あぁ。確かにこの人たちならそんなこと言って断りそうだな……」

 ほんとに必死で上半身を起こしている橘右近を支えている彩芽嬢が、話しかけてきた。

「大酋長様、お見苦しいところをお見せして申し訳ござりませぬ」

 見苦しいどころじゃないよ……。

「ご無理をなさりなさるな、お体に障られるといかぬので、横におなり下され」

 そういって初めて、無理やり起こしていた体を、ゆっくりと横たえ始めた。

「そのお体は、私どものエスメラルダを賊から守り、負った名誉の負傷と聞いております。その御礼と言うには足りぬやもしれませぬが、この仙薬と強壮の飲み物を頂いてくださりませんでしょうか?」

 万能回復薬と、栄養ドリンク一式を彩芽嬢に手渡した。

 その手を両の掌で包み込みながら彩芽嬢は薬を受け取り、少し頭を下げた。

「ああ、大酋長様、か弱き女子を守るのは武士の務め、その際に手傷を追うは右近の未熟さにござりまする。されど、かよう未熟者にも暖かき情けをおかけいただきまして、感謝の言葉もございません。さあ、右近、この薬を頂きなさい」

 速攻で彩芽嬢は橘右近に万能回復薬と栄養ドリンクを飲ませ始めた。

 栄養ドリンクは総合ビタミンに電解イオン質、タウリンにアスパラギン、グリコーゲン、ウコンの力その他もろもろだ。

「ねえ、なになの?こんなにあっさり飲ませ始めちゃったわよ……」

 エスメラルダがその二人を見ながら、小さな声で言ってきた。

「その前のやり取りは知らないが、飲んでくれたらそれでいいじゃないか。数分でよくなるんだから」

「そりゃそうだけど」

「ところで、どんな様子だったんだ、怪我した時?」

「橘右近さんはよく戦ってたの。でも、他の連中が、ね。縄に鉞を括り付けてぶんぶん振り回したり、亀を紐に括り付けて振り回したり、薙刀を大弓で射たり……」

……」

「ホムンクルスをひっつかんで振り回して、別のホムンクルスにぶっつけたり」

「まさか敵より味方の攻撃を避けるのに大変だったのか?」

「そうともいうわ」

「鉞に縄を付けて振り回すって、なんなんだ?まさかそいつら、熊を見つけたら熊の胆が高く売れるからって、襲い掛かって惨殺してるんじゃないだろうな?」

「充分やってるわ」

「惑星白亜に行く前に知り合ってたらったら、そいつら連れて行ってたのにな。恐竜相手でも勝ちそうな気がするぞ」

「いいけど、宇宙船内ではコールドスリープさせといてね」

 惑星外追放には賛成してくれるらしい。

「だが、あいつらと一緒だろうがそうでなかろうが、あの星にはいきたくない。ろくな思いでないからな……」


 

 

 


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