ブログ連載一周年を記念し、ストーリーのまとめの為Wikiを制作しました。
こちらをご覧になれば、あらすじ等の理解に役立ちます。
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「小屋の外の者は全員無事にござりまする」
東垣弥五郎が悔しさを隠しながらいった。
「踏襲めが、湯を沸かすのに、瓢箪に入れて負った南蛮渡来の我祖臨に火をつけると、思った以上の炎でな、見る見るうちに炭焼き小屋は火の海でござる」
俺も初めて正式に理解した。
こいつ、橘右近たちが言うとおりだ。
床下の武器庫にとっさに隠れたにしても、二酸化炭素は下にたまるし、熱もある。
ガソリンのせいで小屋が早く燃え尽きたのが幸いしたんだろうか?
どれだけ悪運が強い奴なんだ?
結構な火災だったはずだ。
しかし、そこにいる安芸山小兵衛と大破れ傘踏襲の二人は、ゴホゴホと何回か咳ばらいをし、着物風衣装に着いた汚れをはたいたら、後は何もなかったように平然とした身のこなしで、こっちに近づいて来る。
小声でエスメラルダに言ってみた。
「なあ、こいつらとその仲間とやらを、敵と争わせ続けるのが一番得策みたいな気がしないか?」
「私もそう思うわ。それに……」
「あいつらと争うと、敵に厄災が降りかかってくれるんじゃないかって言いたいんだろ」
「そうよ。ていうか今頃、予想外の手痛い目に会い続けてるんじゃないの?」
「だな。で、それをやらせ続けるとして、問題はだ、橘家があいつらの災悪を振りかぶってしまってるんだが、それについてはどうする?」
「そうなのよね。ある意味私たちの任務外だけど、その関係調べてたら、たくさんの情報に行き当たったから、難しいのよね」
そういってたら、さっきの取り乱した態度を全て改め、元通り冷静に戻った橘右近が、こちらに近づいてきた。
話を聞こうとして寄ってきたわけではなく、何か注意をしたいようなそんな感じに見える。
「お話の途中に申し訳ございませぬ」
武士らしく礼儀正しく軽く首を下に向け挨拶してから、橘右近は何やら神妙に話し始めた。
「改まって何かございましたか?」
少し斜め見にエスメラルダを眺めてから、俺の方に視線を戻し、橘右近は本当に心配そうに語る。
「はい、ようよう考えてみましたが、今回の橘家再興の話、大酋長様には直接のかかわりのございませぬ事と考え始めた次第です」
「いや、こちらはこちらの求める物事があり、推し進めていた件とそちらの件、利害が一致したとお考えください」
「いえ、それは大酋長様のお優しさに、一方的に縋っているだけに過ぎないと存じております。このままではご迷惑をおかけするばかり」
心配そうにしているが、そうだ、俺より少し年下の橘右近は、それより少し下のエスメラルダを見て、直接声をかけられないが、なにやら何某かの感情を抱いているような、そんな感じなんだった。
「水臭い事を申されるな。申しました通り、自らの命の危険をも顧みず、民衆を襲う物の怪に立ち向かわれた気概に、痛く感心しましたと申しましたところ、当方に嘘偽りございません」
それを聞くと、橘右近は踵を合わせ、深く礼をした。
「かたじけのうござります。しかし、いまこの時、橘家がかつての力を持ていれば、大酋長様に一層お力になれたものを」
「それは言わぬ約束。もしかようであれば、そもそも出会ってもおらぬ勝ったかもしれませぬ」
「確かにごもっともに」
「さりとて、そちらはそちらで大変なこともございましょうから、こちらを付け狙うという勘定奉行の手の者、地獄三人衆とその手配の者でありましたでしょうか、それと当方の争いにはご介入なさらずとも大丈夫にございまする」
その辺が心配なところなのかもしれない。エスメラルダが俺と一緒に戦いそうな感じなのは見ればすぐにわかるから。
「……」
「勿論勘定奉行一味は共通の敵、しかし、奴らが放った者に関しましては、ご心配無用にございます」
と、なにやら偉そうに言ってしまったんだが、その時にふと気づいた。
焼け焦げて崩れ落ちた元炭焼き小屋の残骸、少しばかり向こうの雑木林の中……。
ちょいよいと合図したら、エスメラルダも気付いたようだ。
「あら、あれはうちの地獄級馬鹿に人衆じゃないの」
「酷いこと言ってやるなよ」
雑木林の枝に上り、葉の陰に隠れながら、さりげなくこっちにアピールしているハインツルドルフとグスタフイワノフだった。
よくよく見ると、遠目でよく見えないけど、黒い忍び装束風の衣装が、煤けて汚れてしまっているように見える。
ってことは、火災の際にあの小屋の中に、もしくは極めて近いところにいたってことになる。
「火事の時小屋にいたようだな、いや、よく無事だったよ、あいつら」
「それっ位の身は自分で守らないと」
「厳しいこと言ってやるなよ」
「大体、小屋の中にいたんだと思うけど、あいつらの事だから『きれいなお姉さん』を任務にかこつけてまじかに見ようとか、そういうつもりで、綾芽嬢の近くにいたに違いないんだから」
「根も葉もない事ではなさそうな気がしてきたが……」
「大丈夫、お馬鹿さんは簡単に死なないから。それよりも次の任務与えて、鍛えてあげちゃいましょう」
「少しは労をねぎらってやれよ。あいつらだって一応、奉行所で秘密書類を見つけ出して、帝国情報部に送るってことをやったんだから」
「そりゃ、潜入も錠前破りも私が教えたんだから、あの子ら出来て当然ね。それくらいできないとついて来る価値ないわ」
同属の、指導教育義務まであるエスメラルダはその面手厳しいが、まあ、俺の方からあいつらについてはしっかり労っておいてやろう。