ブログ連載一周年を記念し、ストーリーのまとめの為Wikiを制作しました。
こちらをご覧になれば、あらすじ等の理解に役立ちます。
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「ああ、俺も同じこと言った。いやそれはいい、それにしてもだ、橘家の者が無謀な事をすると思ってたが、そういう事だったんだ」
「おそらくは、その時は警戒が緩むと思って、討ち入ろうとしてたのね」
「ああ、しかし討ち入りは俺が止めたんだ。だがこのままじゃ、その娘が悪代官を刺してしまうぞ」
「あの、別にそんな奴刺されたって、この世の悪が一人消えるだけじゃないの?」
「あ、そっか……。じゃやないよ、幾ら警戒が緩くとも、周りに少しは警護もいるだろう、刺し違いを覚悟してるんだ」
「でも、どうするの?助けられるの?」
「それなんだが、おそらく今頃、橘家の若頭首は作戦を変更して、その姉だか妹だかの移動中に助け出そうとしてるに違いないんだ」
「でも、それって別に困ることってないんじゃないの?」
「そうだ。助けさせるのは問題ない。しかし、おそらくだがその娘がどの道を何時にって、そういう情報を知らないと思う。橘家の若頭目や共侍は、討ち死にする気で飛び出してきてるから、蟄居閉門の沙汰も怖れていなかった。だが今は違う、討ち死にをとりあえず中断して、時を待つ身だ。だが、捕まったら、下手すりゃこの辺の治安から考えて獄門台だ。それこそ、討ち死にした方が武士の面目が立とうってもんだ」
「どうしましょう?その女の人が通るって思われる道を探す手立てって、何かないの?」
「解らん。しかし、今はできることを全部やろう。付近に少しだけ監視用にプローブドローンを放ってるが、そいつらを超高度まで上がらせて、そこから俯瞰と超望遠で、それらしいと思われる一行を全部マークさせるんだ。その中から勘定奉行所に向かいそうなやつを洗うしかない」
「手は少しかかるけど、それしかなさそうね」
「そもそもこんな夜に籠か牛車か知らないが、移動してるんだかあやしいが、もしもってこともある」
「でも、ハインツルドルフ達が急いで出てっちゃったってことは、その女の人、夜でも移動してるってことかも知れないわ。あの子たち、勘だけはすごくいいから」
「ありうるな。あいつら二人についてなら、位置情報で探すことができるから、今から追ってみる。そっちは、焼けた蔵だか書庫高の前に張り紙したら、橘の若頭首のもとに向かってくれ。俺の間者が情報を掴む為動いてるって言ってあるから、そういえば多分わかってもらえる」
「わかったわ」
今度はハインツルドルフ達を追うことになった。全く忙しい。
さっきの町人長屋近辺では一辻毎に路上強盗がいたが、さすがに奉行所近辺ではそうもあるまいと信じたい。
なんとなくであって、特に根拠はないが、今のところあいつらが制御不能の高エネルギー異能力をぶっ放す心配は極めて低そうだが、相手は子供、危険が迫ればどうなることかわかったもんじゃない。
そんな、危険極まりない超異能力を使わせることがないように、エスメラルダが監視したんだが、それを振り切って飛び出して行ったんだろう。あいつらめ、エスメラルダが奉行所での調べ物があるため、追っていけないのをいいことに……。
奉行所と勘定奉行所は、そこそこ離れていた。
合同庁舎にするか業務効率化で省庁合併みたいに一緒になってしまえ!
無駄にあちこち走らされるもので、なぜか高度な政治形態に対する不満の悪態が出てしまった。
それにしてもあの二人、子供とは思えないすばしっこさだな。
街はほぼ平地で、川の流れも緩やかだ。坂とかがないから走り回ってもその分だけは助かる。まあ、完全な平地ではなく極めて緩やかにではあるが勾配はある。
商人街や白壁倉庫は船着きがしやすいように川べりにあったが、勘定奉行所はどちらかといえば比較的高い標高にある。海抜自体はそれほど高くないが、このあたりでは山の手といえなくはないだろう。
相当走ったな……。
体力回復の霊薬を一錠飲み干し、なんとかたどり着けた。
南向きの門構え、瓦ぶきの白壁に取り囲まれた五千坪はある立派な武家屋敷が、勘定奉行所だった。
それ専用の建物ではなく、勘定奉行に任官した者の屋敷が勘定奉行所のお役目を拝領するのだ。
あの二人の反応は、勘定奉行所内、建物の中から出ている。
おそらくは天井裏に忍び込んでいるんだろう。
追いたいんだが……どうやって入ったんだ?
立派な重い木造の門の前には夜だというのに、左右二人の門番が立っている。
塀は高く、飛び越えるのは容易ではない。
穴でも掘って入ったのか?
残念ながらモバイルデバイスは、今あいつらのいる位置は解るのだが、時間をさかのぼってどういう経路でそこにたどり着いたかの記録は残っていない。
おそらくは一人がもう一人の方の上から塀の上の瓦まで飛び乗り、上の一人がもう一人を縄か何かで引っ張り上げたのだろうと思われる。
そしてその位置は、人目に付かず、少しだけでも地面が盛り上がっているところに違いない。
あそこだ……。
門番から見えない路地を一つ入る。
保安のために生えていた木を切り倒したのだが、根を抜き取らず、切り株がそのまま残されている。その、丸く切られた年輪の見える幹の端から、細枝と数枚の葉っぱが目を出しているから、まだ生きている木ともいえる。
出来るか?
探せばあちこちにある防火用用水桶、その近所に設置されてる鳶口を失敬する。
木の切り株の上に鳶口を垂直に立て、その上に飛び乗り、それを踏み台に垂直飛び。
なんとか右手が塀の上の瓦にかかった。
鳶口が小さな音を立てて倒れるが、誰かに聞きつけられる程ではない。
手さえかかればあとは上体を引き上げ、草履風履物を落とさないように気を付けて足を塀の上に持ってくる。