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ブログ連載一周年を記念し、ストーリーのまとめの為Wikiを制作しました。

 

こちらをご覧になれば、あらすじ等の理解に役立ちます。

 

但し、まだ制作中の部分も多々あります。

 

こちらは ↓ Wikiへのリンクです。

 

 

 

 

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第471話

 

 

 俺の知りたいのは、ホムンクルス製造に使われる成長促進剤の重要な原料である『ほおの木』がどうなっているのかだ。

 どのくらいの信用を得て、誰に聞けばいいんだ?

 さて、山育ちの阿保だと思われるべきか、意外にやり手と思われるべきか。

 

 

 少し様子を見ていたのだが、淀屋を問い詰める手口といい、いつの間にや銭駒屋の久次を抱き込んだ手口といい、少しの抜かりもない。

 それに加えて、川上の町の商人組合とは対照的に、この街の商人組合は、内部派閥や内部抗争といった敵対する関係が見つからないのだ。それは表面的なものに過ぎないのか、また、裏では相当もめているのか、というところまでは解らない。

 確かなのはここに集まっている連中と、その取引先である小さな店が集まって、この街の商いが執り行われているということだ。合法、非合法を問わずに。

 さらに見る限り、独自の優れた情報網を構築しているようだ。

 間違いなく、取引の全容を全て知ってるはずの淀屋の番頭伊吉郎は、一層全部ぶちまけてしまって、楽になりたがっているのが見え見えだ。それを今ここにいない淀屋への忠誠心が止めているのだ。

 その伊吉郎に、蛇のような縦黒屋が提案を持ちかける。

「番頭さん、この街は広うございます。たなの数も多く、有名どころの大店だけでも、この部屋いっぱいにおるのでございます」

 やはりこの部屋にいる60人くらいの連中は、選ばれた大店の代表って事だな。

「はい、それは重々」

「ただ、店の数も人の数も多うございますが、いつもいつも、本当に仕事ができる者には、なかなか巡りあうことができないようなのですよ」

 なるほど、抱き込み作戦か。この番頭、このままいれば淀屋の暖簾分けくらいはしてもらえる位置にはいるはずだ。しかし、この大きな街で何か自分の得意を生かした商売をさせてもらえるとなると……。

「と、申されますと?」

 白々しく淀屋の番頭伊吉郎が顎を突き出すような口調でいった。

「そこは察していただかないといけませんね」

 取引を小出しにする気だ。しかし、淀屋とその友好店がした横領は、もうほぼすべて調べつくされていると言って間違いない。ここで番頭の伊吉郎を抱きこもうとすることは、合点がいかない。そのことは伊吉郎も承知なので、書状も交わさずに、ほいほいと話に乗ったりはしないはずだ。

 ただ、このままでは暖簾分けしてもらえるはずの淀屋の看板自体危ないのも、利ざとい伊吉郎は承知しているだろう。

「さて、何を察してみればよいのやら、手前にはさっぱり」

 ここでまた井筒屋が、縦黒屋に代わって話始めた。

「川上の町にはですが、私どもの得意先が是非にと欲しがっているものもございます。ただ、量こそは少ないのですが、利幅が大きく、さらにですが、それを納入する礼とでも申しまして、私どもから大変多くの商品をご購入頂いているわけです」

 なに!俺の琴線に触れた。

「まあ、川上の町から降ろしている品について、大方は……」

「御察し頂きたいのですが。商売の仔細を知っておりまして、川上の町の事情に通じている方がいれば、好待遇でというわけです」

 なんか本当っぽくなってきたな。

「なるほどでございますな。この語何かの形で、川上の町のたなが大変わりしても、山から運び込まれる物々はかわりません。しかし、特徴のある商品でございますと、特にそれに通じた者の知恵が御入用という事ですね」

 あ、淀屋番頭伊吉郎、裏切りモードに入ったぞ。

「ご存知かどうかわかりませんが、その商品に関しましては謎ばかりで、ほとほと困り果てているんですよ。取引先様のほうにて、どうなっているのか、存じませんが、喉から手が出るほど欲しがっている部門と、その部門のお邪魔をしようとしているのか、取引に何のかんのと口出しし、邪魔をする部門がございますようで」

「いえ、その辺の話は初耳でございます。何しろ当方は主な取引は芥子だと思い込んでおりました故」

 淀屋の番頭伊吉郎が首をかしげる。今言っているのはおそらく『ほおの木』の事なんだろうが、淀屋側から見れば、取引量の多くない商品など有りすぎて、すぐになんであるのかを思い出せないのだ。

 ということは、『ほおの木』に関する情報については、程度はどれほどか解らないが、機密情報的なものなのだろう。

「そうなのですね。しかし、その商品に関しまして、私どもが見知った限りでは、常に新鮮な在庫が必要らしく、それでいて元値より相当に高く売れますので、一定数常に確保しておきたいというわけなのですよ。そして番頭さんは、少なくとも私どもより商品に関する知識をお持ちではないか、もしくはご本人が存じなくても、お詳しい方をご存知ではないか、と考えた次第です」

 成程、この街の商人組合の情報収集力は結構なものだ。俺が聞いた話と重なる部分が多い。感心するな。

 敵組織がネアンデルタール人を大量移動させて、良質な『ほおの木』の自生する山に住みつかせ、採取を困難にするという作戦だったはずだ。そして、ホムンクルス製造成長促進剤に『ほおの木』の必要な部門と、それを邪魔しようと企む部門があるというのも、不気味に一致している。

 しかし、無理やり連れてこられた感が……淀屋たちの芥子の実の上りの横領を、戦費として使ったという噓の証言を、無理やりさせる事が出来たらとかいう気持ちで、この俺を連れてきたんだが……今は感謝だな。

 そして、おそらく想像している通りの事を、淀屋の番頭伊吉郎が言ってくれた。

「そういった作物というか、商品にお詳しい方を存じてられるのは、こちらの大酋長様になるのではないでしょうか」

 こういう時、つまり横領の嫌疑をとりあえずこっちに置いといて欲しい場合、話をそらし、新しい物事に目を向けてもらいたくなるものだ。

 俺を紹介し、伊吉郎にはなんだかわかっていない、その商品に詳しいという事をアピールし、俺の信用を上げて、その後あわよくば横領の話を忘れさせるか、本当に戦費に使ったと丸め込むかしようとしているのだ。

 

 

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