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ブログ連載一周年を記念し、ストーリーのまとめの為Wikiを制作しました。

 

こちらをご覧になれば、あらすじ等の理解に役立ちます。

 

但し、まだ制作中の部分も多々あります。

 

こちらは ↓ Wikiへのリンクです。

 

 

 

 

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第468話

 

 

 もうこうなっては逃げられない事を悟って、番頭の伊吉郎は屠殺所に連れていかれるかのような表情で、さあどうぞとばかりに道を開ける門番の間を通って、中に入っていった。

「ところで、そちらのお若い方が、今我々の間でひとしきり話題になっておられる、大酋長様でしょうか?」

 

 

 

「こんな私の噂など広まっているとは、これはこれは驚きましたね」

 少々口調が悪徳商人っぽくなってきてるな……とか自分でも不思議に思いながらも、丸庄の番頭に尋ねてみた。

「それは勿論ですよ。是非お会いしたいと思っておりました。広大な集落をまとめ上げられたうえ、シロガネーゼ全てをも率いる、大酋長様の御威光はもはや有力諸侯並みと。これから私ども皆、お世話になって参らねばなりませんから」

「随分とお噂が早いようですね」

 ここの商人たちは、独自の情報網を持っているらしい。それは欲望に直結し、利益に結び付く。ただ、いかにしようとも必ずそこには、希望や推測が入る。もしこの先商人組合の会合で、何か質問をされても、こちらにも対抗策はある。

 まず、こっちはこの件だけに関しては、事実を全てと言って良いほど知っている。それに対して相手方は人づてに聞いたものだけだ。相手が不確かそうな推測によりものを訪ねてきたら、それは向こうが手に入れていない情報と考えて間違いない。

 今のところ、ノーマークだった俺が、大酋長なる謎の座に納まったくらいしか知らないに違いない。何せ当事者でもさっぱりわからないノリでこうなったんだ。

 ただ、相手側はどう交渉していいのか、図りかねているんだろう。

 この街くらい簡単に攻め落とせる兵力に加え、今までほぼ個別で取引していた故、鴨にしやすかった集落が、一つにまとまったのだ。これは交渉という意味合いに置いて、街の商人組合にとって、対応いかんでは不都合になり得るのだ。

 もう少し深く読んでみる。

 相手はどのくらいの情報を持っていて、どう対応してくるだろう。

 淀屋たち街の商人組合側が、芥子に関する不明金を、俺が戦をする為に戦費として用立てたと言ってくる事くらい、予想しているだろう。

 ただ、この話が真実であったならば、話がガラッと替わってくるのだ。

 戦の規模が結構なものであった事くらい、この街を含めた一帯に根を下ろし、情報網を張り巡らせている商人組合なら、当然知っているだろう。そして多額の戦費がかかるというのも、筋が通る話なのだ。

 俺が集落やシロガネーゼをまとめたのには、淀屋たち町の商人組合の財力による援助が有ったと考えれば、下手すればとんでもなく強大な軍事力を持ったものを敵に回すことになるのでは、と考えても全くおかしくない。

 俺はどちらに着いたらいいのだ?情報を、共和国の中枢にまで食い込むことができる人脈を、そういったものを得るためには、どこの誰に聞けばよいかを判断してから考えるのがこの場合正しいと思うんだが。

 そうこう考えているうちに、門から玄関まで続く飛び石を通って、公民館の中に入っていた。玄関は石畳で、結構広い。本当に温泉旅館じゃないかと勘違いしそうだ。植木もしっかり手入れされている。池があるが鯉か何か勝ってるんだろう。

 建物はやっぱり普段は公民館として使われているらしい。例によってその月の利用予定表が貼られていて、誰が何時に使うとかしっかり書いてある。

 今の時刻では、受付と兼用の奥の事務所に人がいる。

「さあ、こちらです、お進みください」

 丸庄の番頭に案内され、板張りの廊下を進んでいった。やはりこちらの方が数倍大きく、立派だ。調度品とかそういったものが不思議なほど無いので、余計に広く感じる。

 まだ明るいので行燈は置かれていない。障子戸を通って差し込む光だけで充分すぎるほどだ。

 滑りやすそうな廊下は長く続いたが、一番奥の部屋にまでたどり着いた。

「淀屋の番頭さんと、大酋長をお連れしました」

「入ってもらってください」

 枯れた声だ。年配の男の声。そう大きくない声だが、長年にわたり人を威圧し続けた実績があるらしく、普通の取引先とかなら、逆らおうなど考える事もなく、小さくさせられるであろう。

 丸正の番頭は、一旦廊下に正座し、俺たちの方を向いて軽く一礼してから、襖を開けた。

 平静を装っているが、淀屋の番頭伊吉郎の内心は強張っているのがわかる。

 丸正の番頭に礼をしてから、部屋に向かった。淀屋の番頭の後でだ。

 部屋に入った途端、なんとか平静を装っていた淀屋の番頭の伊吉郎の顔から、見る見るうちに血の気が引いていく。

 丸庄の番頭は中に入らないらしく、俺たちだけで中に入ると、襖を外からしめた。

 部屋は広く、中規模の宴会くらいは充分にできる広さだ。

 畳敷きの部屋に膳が12脚並び、60人くらいが座していた。ほとんど全員初老以上の年齢だろう。初老以下も混じっているが、おそらくは老齢で動けない旦那に代わって参加している番頭といったところか。

 しかし全員よりにもよて揃いも揃って……なんて人相悪く金に汚くがめつそうなんだ?

 ここ数十年、本音なんか一度も口にしたことがなさそうな感じだ。

 ここの全員、揃いも揃って濃い茶色の着物風衣装に、今は脱いでいる者が大半だが、黒の羽織姿。そして帯も含めて上質な生地だ。多分裏地には物凄く金のかかった刺繍とかが施されているのだろう。

 廊下側は襖で仕切られているが、反対側は障子窓が光を取り込み、明るい。

 それはそもすれば逆光であり、この部屋の窓側にいる老人の顔を、ひとしきり見えにくくしている。

「遠いところをわざわざお越しいただきまして」

 重く黒いかすれた老齢の男の声がした。呼びつけた淀屋の番頭への、一応のねぎらいだ。

「こ、これはこれは。先だっては結構なものを頂き、淀屋ともども礼を申し上げさせていただきます」

 何をもらったのか分からないが、見えない文字で、来ないとどうなるかわかってんだろうな、とでも書かれていそうな物なんだろうな。

「ほんのお気持ちですよ。さあ、こちらにおかけください。ところで、そちらのお若い方が大酋長でございますかな」

「申し遅れました。お初にお目にかかります」

 席に着いてから、俺たちに声をかけた、見るからに大店の旦那といった風貌で、悪人相の老人に、名刺を渡した。百枚用意してあるから、この部屋の全員に渡せるだろう。

 

 

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