ブログ連載一周年を記念し、ストーリーのまとめの為Wikiを制作しました。
こちらをご覧になれば、あらすじ等の理解に役立ちます。
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第396話
「へい、だだっ広いとこに一杯住んでやすから、畑にしやすい土地もありゃ、狩場の土地もありやすんで、そんなわけで部族ごと、そうなってるらしいんすが」
「やっぱりだ。だったら、そんなのどうやってまとめりゃいいんだよ」
「ですんで、如何し様もねえ一大事ん時だけ、呪術師が聖地セドギワにいって、精霊のお告げを聞くんっすよ」
なんか伍平がやたらと詳しい気がするが、日本の明治か江戸時代の農村みたいなのと、ネイティブ・アメリカンみたいなのが、同じ大陸に住んでて、小競り合い繰り返してりゃ、相手に対する情報も知らず知らず増えてくるってもんなんだろうな。
ていうかどんな勢力図なんだ……。
確かなのは、ネイティブ・アメリカンみたいなシロガネーゼの居住している地域の方が、北方面にあり、北方異民族の脅威と直接対峙しているので、部族ごとに争っている場合じゃなく、ここを主とする集落群に同盟と、部族の協調の活路を求めて来たということだ。
あ、俺、いつの間にかこことか言ってしまってる……。
考えようによってはかなりプライドの高いシロガネーゼが、自らこちらに伺いを立て、俺を頂点に皆をまとめて北方異民族と戦おうといってるのだ。
困るのは、それはそれで一大事だということはわかってるんだが、俺の主目的は帝国全土の危機であるところのホムンクルス戦争を防ぐために、ホムンクルス製造促進剤の流れを追うことなんだ。
精霊のお言葉とやらで何故か俺がこのあたりをまとめ、勝利に導く、平和と繁栄の使者ってなものにされてしまっているが、正直困る……。
「ってことは、今もシロガネーゼは、北方の居留地を荒らされて、追われて、こっちへこっちへ逃げてきてるって事だろ?」
「へぇ、そいでもって、部族をまとめ、戦いに勝利する精霊の使いが酋長だって言っとりやすんでぇ」
「ってことは……いや、もうこっちで何とかする」
言うと周りに聞こえるから言わなかったが、早い話、シロガネーゼもまとまりたがってるが、長年の部族同士の確執や習慣の違い、その他もろもろで引っ込みがつかないから、精霊のお告げとやらにかこつけて、この俺にまとめてもらいたがってるって事でいいんだよな……。
ってことは、俺が好きなこと言って好きなように振舞ってればいいんであって、そのうち時期を見計らってホムンクルスの成長促進剤の原料と思われる「ほおの木」とかいう者のことを聞き出して、あわよくば、こんなに数がいるんだから、誰かその流れを知ってると思うから、うまく聞き出せばいいと。
そのためにはまず、ここの連中全部をまとめて北方異民族と戦って勝利して、精霊の使いの英雄であることを証明して……まて、それって、滅茶苦茶難易度高いじゃないか。
少しシロガネーゼの使いを待たしてしまってたことに気付き、もう一回その使いの男の方に注意を戻した。
「お前、シロガネーゼ、精霊、選んだ、英雄か」
勝手に知らないところで選んどいて、自分たちから聞いてくるなよと思いながらも、何か流れ上今ある騒動を納めないと、こっちの主目的に影響するので、ここは善後策考えずに答えることにした。
「そうだ、この俺が、精霊の呼びかけでこの地に訪れ、勝利と平和を約束する伝説の英雄となるために来た者だ」
自分でも何を言ってるんだと思ってしまうことはよくあるもんだ。
「おお!」
そこにいたシロガネーゼ四人が、細い目を可能な限り見張って、それから右腕を胸の前にあて、左ひざを立てたまま右ひざをつき、俺に向かって頭を下げた。
あ……なんか最敬礼っぽい事されてしまった……。
もうこうなったら行くとこまで行くしかない。
このシロガネーゼにしたって、散々会合とかはしてきたけど、答えって奴がでないから、とりあえず俺を御旗にしたいんだろう。
「そこの者、オパッチ族のジェロイモとかいう者の所に連れていけ。話の分からん奴みたいだから、ちょっと締めてやる」
ついつい威勢のいいこといってしまったが、それを聞いてた伍平、利吉、竹作をはじめとする集落の連中どもの顔が驚愕にゆがんだ。
「おお、さすがは酋長」
誰か集落の男がぽつりと小声で言った。
「近くまできてたんだったな、一方的に来させるのはなんだ、こっちからも出向いてやる。お前は先に馬で戻って、オパッチ族に話をつけてこい、中間地点の都合のいいところで会ってやるってな。だれか度胸のある奴一人、一緒に行って俺たちの要件をしっかりと伝えてこい」
オパッチ族の使者にそう言って、先に馬で走って迎えに行かせた。集落の男も一人、一緒に馬に相乗りさせてこちらの要件を伝えさせる事になっての事だ。あいつが戻ってくるまで、こっちも先に進んで、待ち合わせ地点まで少しでも近いところに向かってやるか。
そして、集落の男、ほかの集落の男、何人か合計十数名を選び、最初に来たシロガネーゼの使者三人に先導されて歩き始めた。静かな佇まいでつくとも離れるともなく、コサメさんも俺の少し後ろをついてくる。
もうこうなったらシロガネーゼの精霊とやらを信じて、行けるとこまでいく。なるようになれってなかんじだ。
テンション張って緊張も高くいざ赴かんとする俺に、ほかに聞こえないような小さな声でコサメさんが話しかけてきた。
「意見具申させていただいてよろしいでしょうか」
「あ、構わないよ。なんでも」
「今からオパッチ族という好戦的な部族との交渉に赴きます。その前に、雑木林のハンビーで待機しているハインツルドルフや、シャトルと連絡を取り、プローブドローンによる正確な敵の数や配置を確認すべきかと思います」
あ~~そうだ、そうだよ、なんかここの集落、電気も来ていなければ電話もない、着ているのは江戸時代か明治時代の日本の農村みたいな着物風衣装だから、完全に忘れてた。
なんか、雰囲気に飲み込まれて、こっちまで文明開化前みたいなつもりになってしまっていたけど、そうだよ、今は宇宙船が亜空間航行して、光速でも何十年もかかる距離を一瞬で移動できる時代なんだ。
そうそう、それに、近くに武装したハンビーが待機してて、俺たちの周囲をプローブドローンで監視しているんだ。
こっちは危険な潜入任務中だから、向こうからあえて連絡して来るのを遠慮してるか躊躇ってるんであって、尋ねれば相手の人数、潜伏地点、陣形その他全部ほいほいと教えてくれるんだ。