ブログ連載一周年を記念し、ストーリーのまとめの為Wikiを制作しました。
こちらをご覧になれば、あらすじ等の理解に役立ちます。
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第378話
Ⅴ5が戻るまでグスタフイワノフが一人でシャトルに残って番をすることになる。
そしてハンビーは発進した。
選定していた人と出会わないコースを走って集落に向かうのだが、忘れていたことがあった……。
Ⅴ5には感情がないのだが、それに従って恐怖感というものもない。
荒れた凹凸の激しい、しかも細く曲がりくねった山道を、とんでもない速度でぶっ飛ばすのだ。途中四駆のタイヤの一つが宙に浮くことなどしょっちゅのことだった。上下左右に激しく揺られ、コーナリングの時は左右の窓に頭をぶつけそうになりながら、電気自動車の軽いモーター音とロードノイズだけで高速運転がなされている。
「ひゃ……」
走ってるときにしゃべると舌を噛んで死にそうな、乱暴な運転の中、ハインツルドルフが軽い叫び声をあげた。
見ると泣きそうな顔をしている。
唯一の救いはシャトル停泊位置から村落への距離が短かったことだ。まあ、人のいない道を行くため、少しだけ迂回はしたが。
集落まで半里ほどの、身を隠すのに適している雑木林の中にハンビーを停め、監視様小型カメラをボンネットから上に伸ばし、周囲を確認する。
しかし……日本の農村みたいな風景だと、なぜか距離の目測の単位が一里になるのはなぜなんだ?
着物風衣装の下に、防護用の強化繊維の肌着、まあ、簡単にイメージするなら各々の肌の色に合わせて染色されたストッキングのようなものをつけているので、揺れる車の中であちこちに体を摺ったりぶつけたりしても、怪我こそしてはいなかった。
しかしぶつければ痛いんだ。
「ピンとこないだろうが、Ⅴ5の操縦で、オフロードバイクの後ろに乗って、神殿ピラミッドの上から、階段走り降りてみろ」
「僕無理……そんなのに耐えられる根性ないよ」
「俺も成り行きで乗っただけで、根性で乗ったわけじゃないがな」
吐きそうな青ざめた顔のハインツルドルフだったが、それでも根性で立ち上がった。
コサメさんに弱いとこを見せたくないのだ。こいつもグスタフイワノフも女性にいいとこ見せようとして、必死だからな。
気分は悪くないわけなどないのだが、ひた隠しにしているのであろうコサメさんは、すっと姿勢よく立ち上がり、先ほど着たばかりの馴れない着物風衣装の可動範囲を探るかのように、慎重に車内から地面に降り立った。
俺も助手席のドアを開け、車外に出た。
着物風の衣装は帯の下がほぼフリーなので、足は凄く動かしやすい。
「ではプローブドローンを展開します皆様のモバイルデバイスでいつでも確認できますし背後から敵が迫るなど危険が迫れば警告致します」
Ⅴ5がそういって、俺たちが俗に菓子箱といっているケースから数十基のプローブドローンを放った。上空に舞っていき、つかず離れず俺たちの周囲を監視し、何者かが迫れば注意を促すのだ。
「わかった。よし、みんな、モバイルデバイスの警告音を振動に切り替えてあるか確かめるんだ。誰かが背後に迫ってるときにサイレンが鳴ると大変だからな。その方がいい場合は追って指令するから、とりあえず今は振動モードにしておいてくれ」
というよりⅤ5はそういうこと全くお気になさらん奴で、背後から敵が迫ってきたりなんかすれば、平気でビープ音を鳴らすからな。
おそらくは振動モードにしているだろうとは思うが、念のため二人はモバイルデバイスを見返した。そして着物の内側、帯の下あたりの隠しポケットに戻す。
集落を軽く見下ろすなだらかな坂の上に、こんもりと少しだけ盛り上がった地形。その上にブナやコナラといった木が茂る雑木林の後ろだ。
乾いた赤土の上に無造作に落ちている緑の落ち葉。
気温は25度前後だろうか。
食料その他救命具の入った金属カプセルをを雑木林に目立たぬように埋め、少々の携帯食を腰のあたりに下げ、出発準備を整える。
木の上に栗鼠が走り回っているのを見て、ハインツルドルフが手でおっぱらった。
「だめだよ、栗鼠さん、こんなところにいちゃ、食べられちゃうよ」
栗鼠がどこかに逃げたので安心しているようだ。どうやら本気で心配してるらしい。
風はあくまでも爽やかで、心地よく着物風衣装の袖や裾を揺らす。
「春っぽいな。みろ、ところどころ芥子が収穫された跡がある」
少し向こうに広がる大々的というか、よくもこうまで堂々とといった感じに広がる芥子畑に、花が咲き乱れていたが、ところどころ、植えた時期が早いのかそれとも何か生産調整的な事を行っているのか、そいつはわからないが、花が咲き終えて、実がなってしまったと思われる畑もある。花が咲いた後出来る芥子坊主という奴があり、そいつに切れ目を入れて、出てきた汁を回収して瓶か何かに詰めて出荷してるんだろうな。
芥子の花畑が広がっているなか、所々に、何面も花の咲いていない箇所がある。花が咲いていないというより、咲き終えて刈り取られたといった方がいいか。
「じゃ、やっぱり生アヘン採ってたってことだね」
「間違いないな、ここからじゃ見えないが、近くに行けば芥子坊主から生アヘンを取ったあとの芥子の花の残骸が転がってると思うぞ。全部焼かれてるかもしれないがな」
丁度今はまだプローブドローンも、収穫された後の芥子畑にまで行っていないから、確認こそできないが、まず間違いないだろう。
「え~~っと、何に使うかはわかってないけど、芥子坊主から汁を取って瓶かなんかに詰めて、それを売ればお金になるってことは知ってるってことだよね、ここの人たち」
「もしかしたらそのあと食用に芥子の実を採取してるかもしれないが、そっちの収入は大したことないだろうな。それより、採取後の芥子の花を燃やしたりして、中毒になんないんだっけ?覚えてないが」
なるかならないかはわからないが、狭い部屋の中で燃やすわけでもない、野焼きだからそうそう中毒にならないかもしれない。
周囲の様子と事実から、まずは村落の様子を観察して、可能な限りの情報を把握しておかないといけない。
「情報部からの可能な限りの情報はモバイルデバイスに転送していますが限りもある情報ですのでご注意下さいでは私は一旦シャトルに帰還いたしますがプローブドローンの情報で危険と感じればすぐに応援に駆け付けますのでご安心下さい」
ハンビーの窓を開き、操縦席に座ったままのⅤ5が、顔だけこちらに向けて言った。
「わかった。俺たちは船でさっきの街まで来て、この村まで歩いてきたという触れ込みで行くから、何かあった時すぐ対処できるようにしておいてくれ。急に答えないといけなくなった隣の村の名前とか、俺たちの来たことになってる川沿いの街の名前とかも答えられるようにな」