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第327話

 

 

 オッサン29歳が殴られ続ける音が更に更に大きくなり続けた。

 そしてそのときが来た。ついにハインツルドルフの口から、その言葉が。

「あ、死んだよ……」

 それを耳にしたとき、爆裂デンジャラス無花果が、ついに、ついに大爆発を起こしたのだ……肉体の耐えられる限りの痛みを通り越した俺の意識は、完全に途絶えて闇に落ちていった。失神だ……。

 

 

 

 ここから先は、後でプローブドローンの記録映像を見て知った事である……。

「でもすごいね、さすが行者のトップで、セイジって呼ばれるだけあるね」

「うん。死ぬほどの責め苦に耐えられないで、死んじゃった時の為に、自らをアンデッド化するなんて」

 説明を鵜呑みにしてるグスタフイワノフとハインツルドルフは、只々素直に感心していた。活動停止、即ち死とほぼ同等の状態にあるアンデッド、セイジ・美日曜・タナカ。蘇るというか、活動再開までまだしばらくの時が必要である。

 おさらい:アンデッドは活動停止(≒死)になっても、蘇る。しかし、ちゃんと痛みを感じ、苦しみも感じる。どれくらいの時間で活動再開とあいなるかは、時と場合による。ダメージが大きい方が、多くの養分を必要とするとかいう話もちらほら聞くが、アンデッド自体が謎に満ちているのでその辺は不明である。また、アンデッドの蘇る能力と、ヒーラーのヒーリング、即ち傷や病気を治す能力とは別のものらしく、今まで見かけたアンデッドは、獣のように傷の治りの早いものこそいたが、ヒーリングで瞬間的に自らの傷を治すものはいなかった。

 はっと気づいたエスメラルダが、セイジ・美日曜・タナカ29歳のもとにおもむろに駆け寄った。

「ちょ……ちょっと、あんたたち、滅茶苦茶し過ぎよ、セイチィさま、死んじゃったじゃないの」

「いやいや、天空宇宙の意識とやらにコンタクトするためには、死ぬほどわが身を打たれなきゃならないんだよ、きっと。で、それがあるからわが身をアンデッドにするなんて事をしたんだよ……きっと」

 こいつ……ハインツルドルフのきっとを基準に物事を測ってたら、命がいくつあっても足りないかもしれない。まあ、今回に限っては、アンデッドで勉強だけ出来て社会適合性ゼロの変人のオッサンだからかまわんが。

「ね、ねえ、はくとくん、蘇らせるのは無理なの?」

「アンデッドでも、生きてる時の傷なら治せるけど……死んだあと生き返るのは、アンデッド特有の能力で、しかも僕の専門外なんだ~~ちょっとどうすればいいか、医療テントに行って指示を仰いで来るね」

 セイジ・美日曜・タナカの実際の正体を知ってる白兎は、かなりお気楽にエスメラルダに言って、この時やっと、時限式爆裂デンジャラス無花果、早い話痔が破裂して死にかけてるという情けない情けない俺の所に向かってくれた。

「ねえ、どうすればいいの?アンデッドって、心臓マッサージすれば生き返るってもんでもないんでしょ?除細動器ならあるのよ」

「心配しなくても、今頃死にながら天空宇宙の意識とコンタクトしてて、それが終わってから復活するんだよ」

 アンデッドだから死んでも復活できるという原則をしっかりと押さえて冷静な行動をとっているのだろうか?だとすればとても偉いハインツルドルフたちであった。

「セイチィさま……セイチィさま……」

 泣きそうなほど戸惑いながら、行者に扮した一応学者、その実、社会不適合者のセイジ・美日曜・タナカ29歳のオッサンによりそい、懸命に見守るエスメラルダ。人道的に考えればこっちの方が正しいような気もする。

 で、そのアンデッドにしてニセ行者、セイジ・美日曜・タナカ29歳は、その後活動再開した。つまり息を吹き返したのだが、その時自分のすぐそばにエスメラルダがいることに気付き、ほくそ笑んでいるのであった。

 なお、聖者とか大賢者的な翻訳不能の意味合いを持つセイチィとかセイジとかセイヂとかいった感じの、カタカナ表記がむずかしいそれと、このオッサン29歳がセイジという名前なのは単なる偶然である。

 そして医療ドーム内のベッドの上で、時限式爆裂デンジャラス無花果、飛び出した超特大痔の爆発で死の危機にあった情けない情けない俺だったが、絶体絶命の土壇場、まさに冥土の一歩手前で、駆け付けた白兎のヒーリングにより一命を取り遂げた。感謝しないぞ!こっちはアンデッドじゃないんだ、もっと早くこれたはずだぞ。

「よかったね、祭壇造ったりなんのかんので結構時間たってたみたいで、丁度体の臭いも除去できた時間なんだよ」

「うぅうぅ……」

 体はもう、元に戻ったはずだが、動くと先ほどまでのあれの痛みが、また襲ってきそうな気がして、体を動かすのがコワイ。今はどこも悪くないに決まってるのに、何処かから激痛が襲ってこないか震えながら、恐る恐る体を動かしていった。

「あれくらいの症状なら、直接触れなくても、宇宙服の上からだって治せちゃうんだよ」

 先のブビビンビチグソマンゴーダケの時の、全身が腐るかのような特異な症状と違って、痔の一つや二つすぐに治せる……っと。治せたけど治療薬で体に染みついた臭いを除去できなくなるから、あえてな治せなかった……っと。はいはい、その通りですよ。

「も、もういい、言いたいことはあるが」

「そうだよ、もうこれでなにもかも完治して元通りだよ~~」

 こいつ、気楽で能天気だからな。

「それより、宇宙服の中が血だのなんだので滅茶滅茶だ、着替えたいんだが、着替えとハンディーソニックシャワー、有ったかな?」

 血だのなんだのといったが、後に言った何だのの方が酷い。要するに内容物その他だ。

「うん、あるある、持ってくるね」

 よかった、すぐに持ってきてくれた。ハンディーソニックシャワーで汚れを落とし、宇宙服から解放され、着替えを済ませた。

「ようやく、ようやく白亜クソクイフンコロガシが死ぬほどの悪臭も出さず、時限式爆裂デンジャラス無花果って薬の副作用の痔にも悩まされず、普通に普段通り歩いたりできるんだよな?」

「うん、そうだよ~~。その重要な二回の回復ポイント、全部僕がやったから、もうパーフェクトだよ~~」

「はいはいそのとおりで」

 後の方のやつだが、もう少し早く来い!

「それよりも、タナカ29歳のオッサンのほうだけど」

「そうだ、俺の知らないうちにどうなった?まさか元素分解されてはいないだろうが」

「どこまで観てたかわかんないけど、ハインツルドルフたちに精神注入棒とかで殴られてるうちに一旦活動停止状態になって」

「あ、そこまで意識が有ったんでみてた、その後あれだ、あれがあったんだ、俺の方が、爆裂事故」

 

 

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