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第326話

 

 

 セイジ、セイチ、カタカナ表記は難しい発音だが、その意味するところは、聖者とか賢者とか聖人の上級者、修行して考え抜いて賢くなった者とでもいった意味合いだ。

「セイジは秘宝の秘密を我々に伝える為には、悠久の時を超えて待つ必要があるんで、難行苦行の果て自らをアンデッド化させたんだよ」

 本当の話は1%弱といったところか。

 白兎の話を聞いて、エスメラルダが畏れ入って頭を垂れた。

「そうなのでございますか。畏まりまして申し上げまする。私めは出雲鼠族頭領の娘、エスメラルダと申します、お見知りおきを」

 

 

 

 丁寧に挨拶するエスメラルダに、白兎が続けた。

「セイジサマは行者であると同時に、考古学者でもあられ、学位もお持ちなんだよ~~」

 それを聞いてエスメラルダはひれ伏し、隣の二人の頭も両の手で押さえて下げさせた。

 ホントの話は25%にまで増えた。

「をあ~~きゃう~~ぎゃ~~」

「セイジサマその方がではなく、お体に天空宇宙の意識が降りて来ることによって、秘宝の使い方を教えてくれるんだと言ってるよ~~」

 白兎が大体において打ち合わせ通りの事をいった。

「はいぎゃれ~~がいぎゃれ~~ぐ~~がぁってぇ~~」

「でも、セイジサマは、天空宇宙の意識にコンタクトするためには、いやしきわが身に重い苦痛を受けねばならないって、言ってられるよ~~」

「わぎれびぅれば~~」

 セイジサマ・オッサン29歳は、そういって精神注入棒を指さした。

「かの精神注入棒で、我の身を思いっきり打ちのめしてくれるよう請願しています」

 白兎が両の手で精神注入棒をとった。バットくらいの長さ、太さは4~5センチ。柄に梵字が書いてある。エスメラルダ命と書いてるらしいが、俺は読み方を知らない。

「え、私……私がセイチィを?」

 突然白兎に精神注入棒を手渡されたエスメラルダが、戸惑いを隠せずにいた。

 セイジサマ・オッサン29歳は結跏趺坐の姿勢で、手を臍あたりの前に持ってきて印を結び、さあ殴ってくれとばかりに待ち構えた。

「そう、君に身を打ってもらいたいって」

 白兎がそういうと、セイジサマ・オッサン29歳がうんうんと頷く。

「わ、わかったわ。でも……失礼します」

 エスメラルダが精神注入棒で、セイジサマ・オッサン29歳の肩口を正面から打ち付けた。パシッという音がしたが、それほど強くたたいてない事はわかる程度の響きだ。

「はぎゅぎゃんはぎゅぎゃん」

「その強さじゃ、天空宇宙の意識とのコンタクトは無理らしいよ。もっともっと強くっていってるよ~~」

 白兎が言ったが、たぶんセイジサマ・オッサン29歳も同じ事言ってるんだろう。

「え……そ……そうなのですね。わかりました、失礼します」

 エスメラルダがもう一度精神注入棒を振り下ろし、今度はオッサン29歳の背中を打ち付けた。

 パシーンという乾いた音はしたが、痛みという面では知れているだろう。

「はぎゅぎゃんはぎゅぎゃん」

「エスメラルダ、ほんとは優し過ぎるんだよ~~。ここは天空意識に届くように、もっと強く強く打たないと~~」

 そう、白兎が言う通り、いつもは一族の弟分というか、そういった連中のしつけのために、あえて叱り訳を買ってるところがあるが、本当は物凄く優しい娘なのだ。

 と、思ってた矢先、エスメラルダの両隣の二人、ハインツルドルフとグスタフイワノフが立ち上がった。

「ねえ、エスメラルダ、僕ら、意を決したよ」

 グスタフイワノフが、エスメラルダの持ってた精神注入棒をすっと奪い取って、そういった。

「うん、ここは、天空宇宙の意識とかいうのとコンタクトをとるため、僕たちが、心を鬼にするよ」

「そう、一族の為だ、僕らもたまには役に立たないと」

(へ?)ハインツルドルフとグスタフイワノフが、真顔で立候補してきたのには驚かされた。いや、天空宇宙の意識とやらは詭弁で、あのセイジサマ・オッサン29歳はローティーンの女の子に殴られたいだけなんだ、おまえらにじゃないんだが……おいおい……。

 二人は足で、拳で、膝で、肘で、そして精神注入棒で、セイジサマ・オッサン29歳に殴る蹴るの天空宇宙の意識に必要とされる肉体への加害行為を加え始める……オッサン29歳が望んでるということになってるから、ハインツルドルフたちに悪気は全然無いのだが……実際の所は……。

「はぎゅぎゃんはぎゅぎゃん」

 オッサン29歳が悲鳴を上げたが。

「これって、その程度の強さじゃ、まだ天空宇宙の意識とはコンタクトできないって意味だよね」

 オッサン29歳、さっきもそういってたから、グスタフイワノフがそう解釈したのもあながち間違いではない。

 ドカン、ドゴン、ボコ、バシ、ビシ、ガツ!

「はぎゅぎゃんはぎゅぎゃん」

「すごいや、さすがセイジだ、常日頃から半端ない修行を積んでいるんだよ、もっと力いっぱい殴らないとだめだっていってる」

 ドコ、グシャ、メキ、ボス!

 更に更に力が入り、殴る、蹴るの暴行は熾烈を極め……。

 や、やめたれ~~、完全にどっかの新喜劇ノリだ。

 俺も観察者か見学者か野次馬か自分でもわからなくなってきた。

 オッサン29歳が望まぬ形で殴られ続けてるというのに、ついつい……笑けてきた。

 だ、駄目だ、笑うとビンビン痔が痛む……やめてくれ、爆裂デンジャラス無花果が~~破裂する~~。緊急手術なんかしたくない!

 ぐひゃひゃひゃ……グワーッ痔が、痔が~~。

 ガンゴンズンバンドギャバキボコ!

 オッサン29歳が殴られ続ける音が更に更に大きくなり続けた。

 そしてそのときが来た。ついにハインツルドルフの口から、その言葉が。

「あ、死んだよ……」

 それを耳にしたとき、俺もついに我慢しきれず、その時を迎えた!

 爆裂デンジャラス無花果が、痔がついに、ついに大爆発を起こしたのだ……。

 緊急手術が必要なほどの大惨事、肉体の耐えられる限りの痛みを通り越した。俺の意識は、完全に途絶えて闇に落ちていく。失神だ……。

 

 

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