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第324話

 

 

「なんとか、ベッド開けたよ~~今そっち行くから」

 相当苦労してベッドを開けてくれたらしい白兎は、すぐに俺の方に来て、肩を貸してくれた。細く小さく力も無い白兎に支えてもらって歩くんだが、足を少し動かすたび、激痛が走る。歯を食いしばる。少しの振動でもビンビン響く。青筋が浮いてるかもしれない。脂汗が宇宙服の中いっぱいに流れようとしている。

 時限式爆裂デンジャラス無花果とまで成長していないが、それでこの苦しみだ、後数十分後にはどうなってるんだ?

 

 

 

「なんで……俺、こんな……痛みに耐えながら……オッサンを満足させて……秘宝の秘密、聞き出す……難易度ウルトラCの……アイデア……」

 わ、僅か数メートルの距離が、滅茶苦茶辛い。

 ついでに痔も、滅茶苦茶辛い。

 どうすればいいんだ、力を入れてはいけない気がするが、力を抜く方法も痛くてよくわからない。

 なんとかベッドに着いた。泳ぐというか溺れる様な仕草でベッドを這って、うつ伏せに寝ようとするがうまくいかない。

「ねえ、ベッドじゃなくって、マットに寝たほうがよかったね」

「ああ、俺も思ったが……すまん、そろそろと後ろから押してくれ」

「は~~い」

 白兎に押してもらって、やっとこさベッドにうつ伏せになることが出来た。

「ああ、私はアンデッドとして充分生きたから、最後はエスメラルダちゃんに何回か責め殺された挙句、元素分解されて消滅したい」

 恍惚としながら一人なんか言ってるオッサン29歳。どうでもいいけど秘宝の使い方だけ教えてから、消滅でも何でもしてくれよ。

「白兎、俺の周波数に合わせたイヤースピーカーをオッサンにかしてやれ。白兎もその周波数できいててくれ」

「え、うん、わかった」

 今はモバイルデバイスを取り出せない。周波数とは、今着ている脱臭装置付き宇宙服の中の専用回線のものだ。つまり、オッサンと白兎にだけ聞こえるように。

 白兎がイヤースピーカーをオッサンに渡してるのが見える。

「オッサン、聞こえるか?ところであんた、名前は?」

「聞こえてますよ。名前?セイジ・美日曜・タナカですよ」

「わかった。今から言う事を聞け。もし聞かなかったら、これからお前は、帝国の施設に軟禁して、ス・ガモーのおばさんがモデルの、とんでもないメイドアンドロイドの集団に取り囲まれて、手荒い歓迎を永遠に受け続けることになるぞ」

「な、なんという怖ろしい……どうすればそのようなおそろしい事をおもいつくのです」

「うるさい。俺と白兎は良く知ってるんだぞ、あのメイドアンドロイドの雑で粗野で横暴で凶悪で、女性としての恥もへったくれも無くなった、恐るべきおばはんっぷりを、たっぷりと目の当たりにしてきているんだ」

「やめてよ~~思い出すだけで怖くなってきたよ~~」

 白兎の情けない怯えた声が、タナカ・オッサン29歳の耳に、嘘偽りない真実として聞こえた。

「白兎、モバイルデバイスで、あのR型だっけ、メイドアンドロイドのビジュアルと性格の恐ろしさを、解くと見せてやれ」

「は~~い」

「ギャ~~!」

 声だけしか聞こえないが、タナカ・オッサン29歳の恐怖に震える声が聞こえた。

「メイドアンドロイドはいわば一種のアンデッドと言えなくもない。そいつと半永久的に一緒にいたくなければ、今から言う事をやるんだ」

「脅されると、秘宝の使い方を教えませんよ……」

「安心しろ、お前の望みも叶えて然るようにする」

「な、なんですと」

 オッサンは喜んでるようだった。なんか完全に期待してる。

「白兎、聞こえてるか?あのだが、確かヒーリングの応用で、髪の毛を伸ばす術もあったよな」

「うん、聞こえてる。髪の毛伸ばすのって、あれは一本一本の直径を細くして、体積相当分長く見せかけるって、いわばごまかしみたいな感じなんだけど、伸ばすことは出来るよ」

「わかった。まず、そのオッサンの髪の毛を、ぼさぼさにするんだ」

「え?うん、つまり髪の毛を伸ばして、指かなんかでくちゃくちゃにするんだね」

「ああ。それからだ、シーツでもなんでもいい、適当にしゃがれた布を切り裂いて、オッサンに纏わせるんだ、体にグルグル巻いて、それで、上の方は、ワンショルダー掛けっていうのかな」

「え~~っと、袈裟かなんかみたいに?」

「そんな上品なもんじゃなくていい。イメージ的に似てるが、目指すところはガンジスのふもとで何十年も修行をしてる、なんとかヨーガの行者風にだ」

「なんかイメージつかめてきたよ。このオッサン29歳って、いつでも露出できる恰好じゃないと頭が働かないとか言ってたから、布一枚って事だね」

「よし、よく理解してくれた。適当にくたびれた装束でな」

「出来る限りやってみる」

「たのんだぞ。そしてお次は、適当な棒っ切れを加工してもらいたい」

「どんな感じに?」

「細かいところは任すが、その棒は『精神注入棒』だ。ヨーガの行者で、そいつで殴られることで、天の啓示を受け取り、秘宝の使い方を説明することが出来るって寸法だ」

「な、なんと!これで私はエスメラルダちゃんに力いっぱい、殴って殴って殴られ続けることが出来るのですね」

 オッサンの感激と喜びの声が聞こえてきた。おそらく目も輝いてるんだろう。

「なんで……そんなに喜べるんだ……まあいい、白兎、その棒をそれらしく作ったら、梵字っぽい書き込みして、それっぽく見えるようにしといてくれ」

「解ったよ。でも、でもすごいよ、よくあの条件クリアーするアイデアが……浮かんだって……」

「褒められてるんだと思うが……なんといっていいのか……」

 自分でも情けない。よくこんなアホな条件をクリアー出来たもんだ。

「いえ、ご謙遜には及びません、貴方はキング・オブ・ネゴシエーター、交渉の凹者、究極の寝技凹です。それと、私は梵字が書けるので、エスメラルダ命と書かせてもらう事にしましょう。大丈夫、気が付きませんよ、だれも」

 オッサンに褒められたんだと思うが、気分は落ち込んでいく。余談だが凹の字もちがう。

「もう、すまんが、大きな声を出せなくなってきた。しばらくこのままでいたいから、用意が出来たら言ってくれ」

「うん、わかった。お大事にね」

 グ……グワァ……待っているというか、うつ伏せでじっとしてるというか、それだけのはずなんだが、どうやら本格的に薬が効いてきたようだった。

 

 

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