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第322話

 

 

 白兎はドームテントの端寄りに簡易椅子を3つ並べていた。一つはドームの壁を背にトレンチコート露出親父用、もう二つはその正面に並べて俺達用だ。

「な、何なんでしょう?私はただのアンデッドで」

 トレンチコート姿、特徴なんかどこにもないようなオッサン。コートの下がどうなってるのか知らないが、膝より下が目視でき、薄いすね毛の生えた足が見えてる。

「まず、最初に聴こう。お前はアンデッドか?」

 

 

 

 問うてみたが、真顔で聞くのがアホらしくなる風貌のオッサンが、トレンチコートをまとってるとしか思えない。

「え、だからさっき私はただのアンデッドでって」

 冴えない声で答えてきた。

「あ、そいうえば。えぇい、もういい、アンデッドなんだな。姿かたちで油断させようとしても無駄だぞ、さっきもエスメラルダが言ってたが、俺達は魑魅魍魎系には強いんだからな。今まで何度も何度も簡単にアンデッドなんぞ葬ってきてるんだ」

「そんなぁ~~油断させようだなんて、私はこの格好が好きなだけです」

「好きって、トレンチはいいとして、その下がシャネルの5番だったら大問題なんだ!」

「ちゃんと靴だけは履いてますが」

「靴だけかい!……あ、見せなくていいからな」

「男に見せる趣味はないですよ」

「女性に見せるほうが困る!!もういい、次の質問に入る。あのミイラ男たちはどうも違うようだが……お前は幼女というか、未成熟の女の子が好きか?」

「勿論大好きです」

「阿保~~」

 つい大声がでてしまった。

「いや~~あのエスメラルダちゃん、いいですね。吊り目に小顔、ナチュラルにカールしたショートカット、細いけど締まった体、それに……」

 ガツン!ゴツン! 俺と白兎がオッサンを殴った音。

「おまえな!さっきまでのミイラ男との話、なにをきいとったんだ!」

「や、やめてください、殴られるならエスメラルダちゃんに」

 ガツン!ゴツン! 俺と白兎が。このオッサンを殴って怒る奴なんかいないだろう。

「阿呆!あの子かなり性格きついんだぞ!怒らすだけじゃすまないぞ」

 はぁ、はぁ、はぁ……。

「あぁ~~アンデッドは死なないから、無限にエスメラルダちゃんに折檻され続けたいで~~す、是非に~~」

「阿保阿保阿保阿保阿保阿保……」

 はぁ、はぁ、はぁ、ハ、あ……。

「殴ってくれなきゃ、秘宝の使い方、わからないですよ。私が鍵となる事知ってますから」

「なんだって?え?なんでトレンチコート露出親父が……もしかして?」

「あの~~私親父じゃないですが。まだ29だし独身だし」

「なんとまあ、老けて見えるというか、オッサン顔というか。まあそれはいいけどなんでアンデッドになったんだ?」

 29は人間の時の年齢で、アンデッドになったら年を取らないから、オッサンで間違いはないんだが。

「それが……私、見た目より老けて見えるかどうかは別にして、見かけより頭いいんですよ。考古学者で学位も持ってて」

「なんと!さっきも聞こうかと思ってたけど、秘宝の守護者じゃなくて、解説とか説明とかする役目のアンデッド?」

「でしょうか?考古学を研究してて、いろんな文献を研究したんですが……将来を嘱望されもしてたんですよ。でも、学会を追われ研究者としての道が閉ざされてしまったんです」

「あらまあ、それは大変な」

「ええ、ついつい恩師の名誉教授のお孫さんに」

 ガツン!ゴツン!俺と白兎がこのオッサン(29歳)考古学者(自称)を殴った音。

「白兎、こいつ、5~6回殺してから、アンデッドでも蘇られない元素分解しろ!」

「そ、そんなことしたら秘宝の秘密が~~」

「やかましい、どうせ名誉教授のお孫さんは年端もいかぬ女の娘だろ!露出だな、それ以上の事してたら、学会を追われるどころか刑務所行きだからな!」

「内々に済まされて学会を追われて……そう、こんな私は罰を受けるべきなんです。エスメラルダちゃんに罵られながら永遠の責め苦を」

「阿呆!そんなこと……エスメラルダだったら、秘宝の秘密のことなんかすっかり忘れて、お前を元素分解してしまうわぃ!」

「そ、それは困ります」

「お前、ほんとに秘宝の秘密とか知ってるのか?疑わしくなってきたが」

「大丈夫です、勉強はできるけど社会性ゼロの典型みたいな奴ですから」

「な……なんかお前見てると、素直に頷ける。で、さっきも聞いたけどなんでアンデッドになったんだ?学会とは関係なさそうだが」

「いえ、古文書の研究の方に関係ありまして。古文書を解読して、そこに書いてあるように、30歳で魔法使いになるかと思って色々試行錯誤してると、間違えて数えで30、つまり29歳でアンデッドになってしまったというわけで」

「阿保なのかそれとも、古文書解析とかの能力だけ、特に図抜けてるのかさっぱりわからん奴だな。で、なんであんな所で秘宝の番人をしてたんだ?」

「それが、私、覗きもするんですが、自分で書いた魔法陣の向こうから女の子の声が聞こえたと思って覗いてみたら、引き込まれて瞬間移動してしまったんです」

「あっさりと覗き趣味まで公開告白するな!で、その女の子の声だと思ってたのが」

「はい、あの口裂け女さんの声だったんです。私、15を超えた女なんかに興味ないのに」

 ガツン!ゴツン!俺と白兎がオッサン(29歳プラスアンデッドになってからの年月)をぶん殴った音。

「阿呆!あそこに永劫閉じ込めとくんだった!」

「むやみに殴らないでくださいよ~~男に殴られてもうれしくないんです」

「やかましい!死なないアンデッドを殴っても手が痛いだけなんだぞ!それに、お前を殴って、暴力はいけないなんて言う奴はいない、いたとしても同類だけだろ!」

「そう……私たちは虐げられて世の片隅で細々と生きていくんです。でも、こんな私ですが、いないと貴方方の求めている秘宝の秘密は解りませんよ」

「屁理屈も、少しは頭いいのかな~~と思えなくないが」

「確かなのは私の協力無くしては、秘宝を持ってたところで、それこそまさしく宝の持ち腐れになるという事ですね。何せ私は秘宝に招かれしものですので」

「さっき趣味の覗きで女の人の声がするから、魔法陣を覗いたと言っただろうが」

「しまった、大人の女の声などに反応した、恥ずべき過去が」

「そっちかい!」

 

 

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