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第184話

 

 

 

 

「お恥ずかしい。弱き心故、身を鍛えるその際の苦しみに耐えること、その思いのみで自らの心に問うておるだけにございます。鍛練の中、同門の技をわが身に受けることで他人の痛みを知り、武術の枠内のみですが、争いの中でも自らを律することにより、非常の際の落ち着きを得る……これが私の求めていたものであり、はばかりながら同門の者に私自身が解いてきた事でございました。しかし、この度はその私がはやる心を抑えられなかった……その事に気付いてしまった、今この時にございます」

 そして神父は顔を翳らせ、首の曲がる限りに下を向いた。

 

 

 

 

 

「もう少しすれば……本当にお判りになると思いますが……自らの行いの過ちを認め、心から悔いる者を、神はお許しになられるのではございませんでしたか?」

 本当の聖職者にいう事ではないのかもしれないが、それを忘れる程混乱してられる事を知るのも、いい事なのかもしれない。

「確かに、おっしゃる通りかもしれません。しかし、私のしたことは、違法の疑いすらある事であったかもしれないのです。そしてその事を、愚かにも考えるにいたらず、その時は、それが正しき事、教皇庁しいては信徒全ての為と信じ切っていたのです」

「それにつきましては、不起訴不問になったではございませんか。私がこうして伺ったのは、先にも申しましたとおり、咎めたてとかの為では、決してございません。どうしてもお伺いしたいことは他にあります」

 チジー神父が、抱え込んでいた頭をゆっくりと起こした。

「と、申されますと?」

「アンドロイドに自我が目覚めたと、そう思われる、もしくはそうなるかもしれない事態についてです」

「よろしいですが……私はアンドロイドの電子頭脳などに精通したものではございませんが?」

「ええ。一般的な観点からでお伺いしたいのです。コンピューターを動かすプログラムには、その初期の頃から学習機能、早い話が、ワープロですと同じ読みでも、使用している所有者の、よく使う文字の変換が優先されるとか、そういった感じの、使っているうちに使いやすくなっていく機能が搭載されていました。しかしです、当たり前かもしれませんが、アンドロイドの電子頭脳にも間違いなく、そういった学習機能はついているはずなのですが、それはあくまで動作振る舞いを効率的に行う学習であるはずです。AIがいかに進歩して、優秀なプログラム開発者が基本設計し、アンドロイドが行動するたびに、様々な成功や失敗を知り、行動予測やそれによる選択肢の先読みなどといった、熟成されたプログラムに進歩していくものとしましょう。いえ、実際にそうなっているのですが……それはあくまでも、計算結果であって、周囲の人間がどう見ようと、それは意識や感情といった物とは別のものです」

「はい、私もそのように考えております。故にアンドロイドの電子頭脳には、制限をかけることも出来ます。人を傷つけない、秘密を守るといった、いわば選択肢に絶対的禁止事項を設ける等ですね」

「それが……知りたいんです。まず、あまりにも馬鹿げた例になってしまいますが、アンドロイドに何かの回路を取り付けて、ソフトウエアを書き換えれば、人間が意のままに操ることも可能ですね。背中にコードとリモコンを付けて、十字キーとABボタンで動かす事から、人間の体に無数に付けたセンサーから、その人間が行う複雑な創作ダンスを踊らせるとかいったことです」

「ええ。それは可能でしょうね。しかし、実は……何の知識もない私が……いえ、個人的意見としてお聞きください。先ほどおっしゃられたことは出来ますが、アンドロイドに感情そのものを持たせるのは、不可能とまで考えております。出来たとしても、AIのなす、それに非常に類似したものでしかないのではないかと、そう考える次第です」

「私もHOタイプといわれるホスピスアンドロイドが、自我を持ったというのは、考えすぎだと考えています。どうもアンドロイドは開発段階で、モデルになった人間の基本的な性格をコピーして、それに様々な制御用のプログラムを加えていくらしく、粗雑な婦人から作られたメイドアンドロイドは粗雑でしたし、優秀なナースから作られたナースアンドロイドは優秀でした。あのHOアンドロイドも、モデルとなった医師とかいうのの人格をコピーした際のバグというかミスであると思っています。まあ、私の仲間で身内というか、いとこか何か同然に思ってる娘が、ひどい目にあわされたのもあって、解体削除されろと思っていますが……あ……本音を言ってしまいました。懺悔の際の神父様に準じて、極秘でお願いいたします」

「そのお話は伺いました。そうですね、お約束いたします……先程のお仲間に対せられるお思い、私が弟子である乙女十字軍に思っているのも、同じようなものとお考え下さい」

「わかりました、で、ここから、神父様、しかも次の教皇と近しいといわれている、貴方を見込んでの話になるのですが」

 少し入り組んだ話になるといった雰囲気を察し、チジー神父が強張んだ。

「私に出来る事か解りませんが、全ておっしゃられたことに対し、全力で尽くすことを誓わせていただきます」

「いえ、そう硬くならないでください、お知恵を拝借したいだけです」

 そういったがやはり神父の固さが消えるわけはなかった。

「気付かず申し訳ございません、飲み物一つ用意しないで……今ご用意いたします」

 自分も緊張の為、水分が欲しくなったのもあるのだろう。

 グラスに注がれた水が、机に二つ置かれた。

「では、少し頂きます……ほう、井戸か何かの湧き水ですね」

「おっしゃられる通りです。ここから二キロ程離れた場所にある井戸で、格別の水質のほか、樽に入れておいても数か月腐らないという、極上の水です。若いモンクが鍛練を兼ねて汲んでくるものです」

「ほう……では、お話に戻らせていただきます」

「はい」

「まず、最初にこの話から。ホムンクルスは何故、人を攻撃してくるのでしょうか?」

「と、申されますと……」

「申し訳ございません、私には、18年前のホムンクルス戦争の記憶はございません。ただ、記録にあるものをそのまま得ただけですが、人工生命体であり、大量生産が効き、数か月で成人に成長し、寿命は2年強、運動能力は極めて高く、残忍な性格で楽しみながら人を殺して回る……」

「その通りでございます。その時対話を心掛けた聖職者も多数おりましたが……悉く残忍な方法で……その話もお聞きになった事と思われます。現在では聖職者間においても、ホムンクルスは人間ではなく別の生き物、そう結論付けるに至っております」

 もう一口、グラスの水を飲ませてもらった。こんな話をしているのに落ち着くことが出来る名水だ。

 

 

 

 

 

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