第56話
「本当に重要かつ肝心な事をあっさり言い続けてる……」
「大丈夫大丈夫、よっぽど怠けたりミスしたりしないとそうはならないから」
「なんかすごく軽い言い方なんだけど……ほんとにそんなでいいの?それとも、よくある、口では気楽な事言ってはいるけど、実は仕事になるとガラっと性格変って、真面目になって、で、凄い力を発揮しだしたりする口なの?」
「そうそう、僕仕事になると性格変って凄い力発揮するんだ~~」
「なんか……嘘に聞こえるのは気のせい?」
「大丈夫大丈夫、これまでもちゃ~~んと、人の願い叶えたり、宇宙の危機を救ったり、いろいろ頑張ってやってきたし、今までやってこれてるから」
「いい悪いは別にして、俺でもできそうな気がしてきたのは確かだ……」
「ね、考えるよりやってみたほうがいい事はいっぱいあるって。さ、四の五の考えてないで、男らしくすぱ~~っと契約しちゃお。二週間以内ならレイオフできるから大丈夫」
「まて、なんかいきなり不安になってきた。レイオフじゃなくってクーリングオフだろ」
「そんなことないって。心配性だな~~。経験不問、研修有り、明るく楽しく若い仲間がいる職場だよ~~」
「おい~~、それ、ブラック企業の募集広告のうたい文句だろう!」
そうこう言ってるところに、エスメラルダが慌てて割り込んできた。
「いい加減になさい。ホントに。真面目にリーダーになってもらえないかって頼もうとしてるのに、みんな揃って寄ってたかってして、だまくらかそうとしてるようにしか聞こえないじゃないの!」
「ひどいな~~、昔は知らないけど、最近はしっかりと神属性いただいて、ちゃ~~んと一生懸命がんばってんだよ~~」
白兎が何やら言い返した。
「なんか……その……昔にあった神話かなんか知らないけど、どんなこと書いてるの?全然しらないんだけど」
「ま、ま、その辺はおいといて」
「それが、なんていうの、ホント説明が難しいんだけど。極悪でもなければちょい悪でもない、特別善良なわけでもないし、どう扱ったらいいんでしょう?」
エスメラルダが白兎を完全に白い目で見てそういった。
その時、まさに部屋の、空間の空気が変わった。何かが確かに起こったのだ。
すがすがしき爽やかな光がゆっくりと世界を包み込み、あたりを満たしてくれる。そんな体の底から、魂の底から、有難くも畏き波動が沸き上がってきたのだ。
神聖な。そんな言葉以外表現のしようもない確かなものがそこに現れられたのだ。
ここにいる皆とは明らかに異質で、何段も、いや、数えることなどできないくらい、高い、高い、次元すら異なりえる、確かな何かがあらしめられたのだ。
瞬きをするのも惜しいほどの高みの後ろからくる光は、後光と呼ぶのだろうか。
上下ともに真っ白な衣装は貫頭衣に似てはいたが前開きで襟を持ち、細めの袴は若干のゆとりがある。黒い革のつま先がほんの少し上がった古代日本の靴。
胸からかけられた首飾りには玉や装飾の施された貝、鏡のような光る金属がつけられ、一番下には勾玉がかけられている。
手足は長く、細く見えるのは力強い柔軟な筋肉で覆われているのだが、脂肪のような贅肉が皆無だからだろう。靴にヒールはないので股下の長さは本物だ。
優雅な指を軽く曲げた肘ごと額の横にひとたび挙げて振り、挨拶するその顔は、小さく健創で、顎のラインはシャープだ。
長い漆黒の髪は艶にあふれ自然に波打ち、着やせして見えるが力強い背中にまでかかっており、左右だけみずらに結われている。
細い鼻梁は高く、鋭い。夢見るような真っ黒な瞳は優しく優雅な視線を支え、真っ直ぐに力強く生えそろった眉の下で愛しみをたたえていた。日本離れしてはいる日本顔の整い切ったその容貌。
神々しいという言葉すら畏れ多い。
日本一の美男神。
しばし唖然と見つめる以外何もできなかった。
その御方は優しく、深く、張りのあるお声で、声は低いが音階も高く、ゆっくりと歌い始められた。
「お~~きなふ~~くろ~~をか~~たにかけ~~♪」
「あ、大国様だ~~」「大国さまだ~~」「わ~~、大国さま~~」
出雲鼠さんたちが、まさに全員一斉にその御方のもとに駆け寄っていった。何もかもを忘れて全力で駆け寄る姿は、よほどお会いしたかった方であるという事が見て取れる。
「よ~~しよ~~し、お前たち、少しお待ち」
そして、今まで御姿のあまりの優美さと後光で気付かなかったが、背中に背負っていた大きな白いずた袋を床に下し、中から何かをつかんで出された。雑穀だ。
「慌てなくっていいよ~~、いっぱいあるから」
出雲鼠さんたちは大喜びで頂いた雑穀を……食べ物に吊られて走ってきたのか……俺は倒れた。
そして、この俺を優しくその瞳に映してくださったらしく、勿体無くもお声をかけていただく光栄に預かることが出来た。
「君だね。話は聞いてるよ、若いのに凄く苦労したんだってね。お~~っとっと、おまえたち、たくさんあるから慌てなくっていいんだよ」
出雲鼠さんたちに出雲の主神様が穀物をお与えになりながら、俺に初めてかけてくださった言葉を一生忘れないだろう。
「聞いたと思うけど、もうすぐ数えで16歳になる使途を探してるんだけど……君、イギリスのほうだっけ?」
あまりの緊張、光栄に声を出すことが出来ないという大失態。ただ頷いた。
「で、君、エリザベス何年生まれなの?」
ドダ……ズンデケデンデン……バタ……