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第50話

 

 

「なんでそうなるの?僕ら、現界のお金は使えない約束なんだよ。それなのに、お金をもらったら、その分善行を積まなきゃいけないんだよ」

 そういったハインツルドルフはこれからおころうとしていることを考え、放心状態だ。

「普通だと、人は、働く意思を持って、仕事を選んで、一応だけど労働条件とか検討して、それから働いて、それで代価のお金をもらうんだよね。僕らは違うんだよ。まずお金もらって、お金くれた人のその時点での徳分をしっかり考慮したうえで、それに応じた願いとか叶えるんだよ。金額も一応見るけど、日ごろからの行いとかしっかり見て、善行の多い人はしっかりとした形でとかね。たま~~にある、境内にそっと置かれた、出所がいまいッちわからない、例えば世のためになりますようにってご寄付のお金の場合でも放っておけないんだよ、それに応じた善行を社会にして返さないといけないんだよ」

 ゲシュタルトが原則を話し、一同、事態が呑み込めてきたようだ。さらに、俺の言わんとしている言葉の意味もじわじわと解ってきはじめたようだ。

「さらに、そのお金、僕たち使えないんだよ。事細かく定められた例外もあるけど、殆どは任務か善行の為だし。でも、手に入ってしまったからには、善行を全うしないといけないんだよ」

 白兎が決まり事を放心状態で口にした。

「なんで何にも悪いことしてないのに、そんな大金持ちになっちゃうんだよ」

 ハインツルドルフが取りようによっては贅沢な愚痴をこぼした。

「艦長、私、頭痛くなってきたんですけど……この任務、撤退は非常に難しくなってるとか言ってたんですけど、こういうわけだったんですね」

 机に両肘をつき、指を組んでその上に額を載せ、顔を伏せたエスメラルダが弱々しく言った。

「返しちゃうとか、何処かに寄付しちゃうとか出来ないんですか?」

「俺もそれは考えたよ。しかし、増えた資産であるマクマー&帝都社の株は惑星復興公社の所有物だ。俺たちの持ってるのは惑星復興公社の株だ。復興特別措置法で定められてて、その株は譲渡できないらしい。復興の為の公社だから安定株主が必要なんだよ」

「なんでそんな大事な事……」

「だから、最初は俺達、お金を差し上げるつもりだったんだよ!むこうの政府が俺達に良かれと思ってその金で惑星復興公社の株主にしてくれたんだよ。むこうは国土は荒れ果て、インフラは滅茶苦茶。復興のために金が必要、そのために使ってくれといった金で、惑星復興公社を作るのは賢明だ。で、大統領から押収した資産の、宇宙的コングロマリットの株を惑星復興公社の資産にすれば技術や物資の調達に有利になるし、人脈も利用できる。使い方としてはこれ以上ないし、俺達にとっても良かれと思ってそうしてくれてるんだよ。こっちが現界の金を使えないなんてこれっぽっちも知らないんだよ。そしてその俺達が手にした資産の価値というのを換算するとだな……」

 俺の言わんとしている事をみんなは理解したらしい。

「もしかして、モウ・マドゥー星系の任務完遂しないとって話になっちゃうの?……ああ、これで艦が壊れてるとか何とか言って、何にもしないで、国賓待遇とまでいかなくっても、お客扱いで観光して過ごす望みも絶たれちゃったんだね」

 恐る恐る聞いてきた機関長のウルデフリードに言ってやった。

「ウルデフリード、お前の名前は平和の支配者という意味のはずだろう?情けない事言うなよ。それよりも、だ。この仕事得た金が大きすぎる……」

 みんなの頭に嫌な予感が廻ったのだろう。次にいう言葉を聞きたくないと言っているのが目で分かる。

「わ~~、なんかとんでもない事いいそう、聞きたくないよ~~」

「お察しの通りだ。今回、まず第一にモウ・マドゥー星系の任務を絶対に果たさなくてはいけない。さらに……以前に得た代価が大きかったため、我々が最も大事にしている善行ポイントの獲得……そいつが非常に小さいものとなる。場合によってはゼロになる可能性もあるって事だ」

「やっぱりだ~~、いやな予感してたんだよ~~。どうするの?善行積んでポイント獲得出来なけりゃ、僕たち困るよ~~」

「俺もだ!」

「若い私たちが頑張って、一族の為に善行積まなきゃいけないのよ。今の話だと、この難解な任務こなしてもポイントはあるかどうか。任務から降りたら、現界のお金沢山獲得しちゃった事もあって、今もってる前に頑張って貯めたポイントから減算されちゃって、下手すりゃ、というか確実にマイナスになっちゃうのよ。まずここにきてる60人ほどが名簿休止扱いになって、お祀りしてもらえなくなるのは仕方ないかもしれないけど、下手すりゃうちのおばあちゃんのような老人から、ちっちゃな子供たちを含めた、一族全員名簿休止になっちゃうかもしれないのよ」

 相変わらず顔を伏せたままのエスメラルダが暗く呟いた。

「困るよ~~、ね、ね、名簿休止だよね、除名じゃないよね」

 ハインツルドルフの悲壮な声に白兎が答えた。

「君たちみんなが出雲大社で祀ってもらえなくなるかもしれないのと同じで、僕には自分の神社があるんだよ……もしもそんな最悪の結果になると、あちこちにある信仰されなくなって神様がいなくなっちゃって荒れるにまかしてる、放置された廃神社みたいになっちゃうかもしれないんだよ。これって大変な事なんだよ。氏子さんもいるんだよ」

 一同、雰囲気も暗く黙り込んでいるところ、起死回生のつもりで放った白兎の次の一言が止めを刺した。

「こうなったら、モウ・マドゥー星系の任務が我々が想定しているより大きく難解なもので、完遂した暁には、前回獲得したお金の重みをはるかに超えたうえ、我々に大量のポイントが入ってくることを期待しよう」

 一同、凍り付いた……相当してから白兎は自分が何を言ったか気が付いたらしい。

「あ……えらいこと言ってしまった気が……」

「もういいよ。というわけで今回の任務は引き受けたうえに完遂しないといけなくなったって事だ。大いなるタダ働きってやつか」

 俺も泣きたくなってるが我慢してそういう。

「で、ここまで暗くなりついでに、もっとどんよりする話をしようか。副長、あの話を」

 

 

 



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