日本企業で時価総額1位のトヨタと2位のソフトバンクが手を結ぶニュースは意外感も含め、驚きで話題になっています。なぜこうなったのでしょうか。

 

 

 

豊田章男社長は自動車業界激変への危機感をずいぶん前から声にしていました。今までの自動車業界はより性能の良いもの、燃費効率がいいもの、パワフルで、乗り心地が良く、安全性が高く、消費者の心をくすぐるデザイン性のある車を追求してきました。言い換えると、自動車というハード面の改革に努めてきました。

 

私も自動車業界が変わりつつあると思い始めたのはこの20年ぐらいだと思います。その一番の理由は近い将来、確実に完全電気自動車と完全自動運転の時代が到来するということだったのです。

 

 

 車のハードの部分は今後も成長するでしょうが、主役はソフトに依存する新しい価値感を見せなくてはいけなくなったと思います。

 今回、ソフトバンクと提携を結んだ理由をメディアにいろいろ書かれています。それはそれで面白いのですが、究極的にトヨタが欲しかったのはソフトバンクが持つビックデータの何物でもないと思います。断言してよいと思います。

 

現在の自動車業界で出来そうでできない自動運転の理由、それは完ぺきな自動運転車を作るためのデータが足りないからなのです。

 

 

あらゆるケースを想定したデータをコンピューターに読み込ませ、AIで判断させるその基幹情報が欠如しているのです。

 

ご存知のようにアメリカで起きたウーバーの死亡事故は明白にデータ不足が引き起こしています。(テスラの事件は人為的事件です。)

自動車各社としてはより完璧を期した自動運転車を製作したいわけですから、要求されるデータは膨大なものになります。その点、ソフトバンクは「乗車回数で見た世界シェアは9割を超える」(日経)ですから規模の圧倒性が有りそうなのです。

 

孫社長は「豊田社長が来て驚いた」とコメントしているようですが、そんなのは孫さんにしてみれば計算のうちでいつ来るのか、ずっと待っていたといってもよいでしょう。

 

こう見ると孫さんがウーバーなどに積極的攻勢したのはデータを目的としていたということは明白でしょう。

 

ビックデータを持つ企業ほど将来のビジネスを左右します。アマゾン、グーグル、フェイスブック、アリババといった巨大企業は圧倒的有利な立場となり、彼らは自動車会社にしろ、一般消費財にしろ、彼らの傘下に全部収めることができる時代がやってきたともいえるのでしょう。

 

ZOZOも同様でした。ネットで服を買うという行為を通じてデータを蓄積し、多くのアパレルメーカーがZOZOに参加しなくてはいけない状況を作り出すわけです。楽天が携帯電話事業に参入するのもデータとみてよいのです。

 

これは企業の力関係を根本的に覆す地殻変動と言ってもよいでしょう。

 

ではモノづくりニッポンはどうなるか、と言えばもちろん、より良い製品を生み出すという根本思想は何ら変わりありません。ただ、売り方が変わり、データを支配し、ソフトをいかに活用するかが企業の生き残りをかけた戦いになるとも言えましょう。

 

その点、トヨタがソフトバンクという世界有数のデータバンクを押さえたという点は他の自動車メーカーには衝撃的事実となることは確実だと思います。

 

80年代に「近未来には日本の自動車メーカーは3社しか残らない」と言われました。不思議と今日まで1社もつぶれずにやってきたわけですが、いよいよ3社に絞り込む動きが出てくるかもしれません。

 

日本が世界に誇る企業。そのトヨタ自動車が生き残りに本気を出してきました。トヨタが完全電気自動車と完全自動運転車で世界をリードする時代は目の前かもしれません。