「23階の笑い」を観る前の解説(ネタバレはなし)
昨日、無事に「23階の笑い」の初日の幕が開きました!
満席のお客様で、劇場は開演前から熱気に溢れていましたが、
最初の辰巳君の案内後の拍手に始まり、たくさんの笑い声、
あるキャストの登場でのどよめき、拍手、笑い声、悲鳴に近い笑い声等が続き、
最後のアンコールでは熱い拍手にスタンディング・オベーションまで頂くという、
感謝してもしきれないお客様の反応に心から感動しました。
本当にありがとうございました!
といっても、公演はまだ始まったばかり!
これから千秋楽までキャスト&スタッフ一同
更に磨きをかけ、全力でお届けしたいと思っている所存です。
「面白かった!」というご感想をたくさん頂くと同時に、
やはり「難しかった」というご感想をお持ちの方も多かった事は理解しています。
原作がありますので、変えるわけにはいきませんが、
当時の政治的な事や時代背景などをネタバレはしない程度に
ここで解説したいと思います。
これを観劇前に読んで頂ければ、少しでも理解しやすくなるといいなあ、
と願っている次第です。
まず、冒頭で付け加えた辰巳君の案内にありますように、
時代設定は1953年のアメリカ。
第二次世界大戦が終わって、まだ10年経っていないのです。
しかし、アメリカは既に経済が成長しはじめ、
テレビをお茶の間で楽しむ人が増加し、TVガイドも創刊されたんです。
ハリウッドではMGMが作る映画が次々と大ヒット。
MGMは「風と共に去りぬ」「オズの魔法使い」「雨に唄えば」などを
作った映画会社です。
映画といえば、マーロン・ブランドは「欲望という名の電車」が大ヒットし、
当時そのセクシーな風貌で女性に大人気だったんです。
ところが、テレビや映画のエンタメ業界が元気な一方で、
「赤狩り」と言って共産主義者を弾圧する動きが激しかったのもこの時代です。
作品に頻繁に出てくるジョー・マッカーシー上院議員を中心として行なわれた
マッカーシズムは政治家のみならず政府関係者、マスコミ、そして
エンターテインメント産業の人達も攻撃しました。
チャップリンをはじめ、ブラックリストには多くの俳優や映画監督、脚本家が載り、業界から追放されたのです。
この当時のことを題材にした映画に「トランボ・ハリウッドに最も嫌われた男」や
「真実の瞬間」「マジェスティック」などがあります。
それからキャロルの台詞に出てくるエドワード・マロウというのは
CBSの人気ニュースキャスターで、先頭に立ってこのマッカーシズムを批判していました。
その様子を描いたのがジョージ・クルーニーが監督した
「グッドナイト&グッドラック」です。
ニューヨークは移民が多い街で、ユダヤ系、アイリッシュ系、アジア系と
色々な人種がいたし、アメリカ経済の中心地で笑いを作る作家達だから、
人種差別のジョークもガンガン飛ばしているわけです。
でも、それも当時ではなく40年も経った後だから
ニール・サイモンは皮肉をこめて書けたのではないかと想像します。
あと、マックスが歴史好きで盛んに歴史上の人物の名前を出してきますが、
これは全然わからなくても大丈夫!実は歴史に弱い私もわからなかった(笑)。
ちなみにハンニバル将軍は、紀元前247年に生まれたカルタゴの将軍。
アレクサンダー大王は、アレクサンドロス3世のことですね。こちらも紀元前。
紀元前の人物を挙げるってことは、ニール・サイモンが歴史好きで
その知識をひけらかしたいのかな~とこれまた私の想像です。
ニール・サイモンは自分の名前の劇場を持つほどの
アメリカを代表する劇作家ではありますが、
この当時はまだまだ政治や社会からの圧力がかかったり、
彼自身がユダヤ系で人種差別を受けてきたからこそ書ける
自虐ネタが多いのではないでしょうか。
何だかこれはやたらコンプライアンスと騒ぐ今の日本に通じるところがあります。
そうそう、アメリカと日本の笑いで決定的な違いがあります。
日本はボケに対して、ツッコミがあって笑いますが、
アメリカはボケたらボケたままで、次のボケに行く。
いわゆるスルーしますが、その軽快なテンポのやりとりで笑う。
まあ、ボケというより、いわゆるジョークですね。
だから、ちょっと笑いの構造が基本的に違うんですが、
そのあたりを頭の隅っこに入れてご覧頂くと
「あー、これもボケだったんだ」とわかるかもしれません。
意外に多いんです、ニールの細かいボケが。
日本人にウケるかどうかは別として(笑)。
長くなりましたが、次回はネタバレしても大丈夫な裏話をもう少し公開しまーす!
ちゃんちゃん!