作戦その1「毎日作戦」

 

家庭教師初日の続き。

 

俺は、少年に、

「成績上げたい?

だったら、俺の言うとおりできるか」

と聞いてみた。

 

すると、「うっ」と、

少年は言葉に詰まった。

これも想定内だった。

 

言うとおりにできるか?、

と言われても、

 

どんなことを言われるのかわからないから、

そこで押し黙るのも当然だ。

 

いくら成績を上げたい気持があっても、

人の言うとおりにはできないものだ。

 

少年は、宿題を増やされることを

イメージしたに違いなかった。

 

成績を上げるには、

学習時間を増やすしかない。

 

しかしながら、

自分の経験からも、


口頭で「勉強しろ」と言って

勉強が継続できるわけがない。

 

単に宿題を増やして

成績が伸びるのであれば

みんな伸びるはずだ。

 

でも、それでは伸びない。

 

だから、むしろ、

少年が安易に

「先生の言うことを聞く約束します」

などと言わなかった分、

まだ「能」はあると思った。

 

でも学習時間を増やすことは、

避けられない。

 

そこで、俺は別の提案をした。

 

「俺がここに来るのは、

週2回なんやけど、

俺の都合がいい時には、

それ以外の日でも来てもいいかな?」

と聞いてみた。

 

少年は「いいよ」と言った。

そこで、俺は保護者に次のようにお願いした。

 

「ご子息の成績を上げるために

私は頑張ってやりますが、

一つだけお願いがあります。

 

お金は最初の約束の分で結構ですので、

自分の都合がいい時には、

余分に来て教えてもいいですか。

 

もちろん急に来ても失礼ですので、

その時は事前にお伝えしますので」と。

 

すると少年の両親は、

申し訳なさそうに承諾をしてくれた。

 

母親は「それでいいんですか」

と言ってくれた。

 

俺は「いいですよ。

どうせ暇なんで」と答えた。

 

私も大学生活の中で、

いろいろ苦悩を抱えており、

 

誰に対してもいいので、

人の役に立ちたい、という

気持ちに支配されていた。

 

少年と保護者に約束すると、

本当に時間のあるときに、

少年に教えるようになった。

        「つづく」