第百六ノ五話(慶喜) | さらさの「粗野がーる」

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アメーバの携帯ゲーム「艶がーる」の主人公を、28歳・恋愛偏差値20の女性に置き換えた実験的小説を書いています。

あくまでフィクションなので、深く考えずに読んでください

気まずい―――
とある料亭のそう広くない一室で、お膳を前に私は身の置き所なく小さくなっていた。


約束の刻限に迎えに来てくれた慶喜さんに伴われ、訪れた座敷にて待っていたのは思いがけない面々で。
思いもかけなかったのは先方も同じらしく、どうしてこいつがここにという視線を向けられた。

座を空けて、コの字方に座して待っていた先客は三人。
近藤さん、山南さん、それに・・・土方さん。新選組のトップ3だ。


慶喜さんが、「給仕の為に頼んだんだよ。仲居に出入りされたら落ち着かないからね」

と説明をしてくれて、近藤さんと山南さんはそれなりに納得した顔をしてくれたのだけど・・・。
土方さんは硬い表情のまま、お酌を受けてくれたのは一度だけ。
すぐさま杯を裏返され、しおしおと引きさがることとなった。


「なんだか土方君はご機嫌斜めだねぇ。せっかくさくらを着飾らせて連れてきたのに」
「かような御配慮は無用でございます」


慶喜さんの軽口に、ピシリと音が立ちそうな勢いで土方さんの眉間にシワが刻まれる。切り捨てるような物言いに近藤さんが小声で「トシッ」と窘めた。


「よいよい。俺はただの『慶喜』として招いたんだから、無礼講でかまわない」


慶喜さんがとりなして、場は少し和んだように思えたけれど、「時に近藤君」と慶喜さんが持ち出した話題に、新選組の三人は三者三様の緊張感を漂わせた。


「隊の解散を上奏したそうだね、本気かい」
「は・・・。畏れながら、私共は、上様が夷狄を打ち払われる際にお手伝いがしたいと思い上洛致した身なれば、その志が遂げられぬなら京洛に留まる理由これ最早見つからず・・・・・・」


『無礼講』と言われたのに堅っ苦しく語り始めた近藤さんを、手をあげて制し、慶喜さんはこれ見よがしのため息をつく。
痛めた右手で若干扱いづらそうに箸を操っていた山南さんが、ためらいがちに口を開いた。


「中納言様は先だって・・・・・・」
「『けいき』。慶喜でいいよ。お忍びで来ているんだから誰に聞き咎められないとも限らないしね」
「・・・慶喜様は先だって、横浜鎖港をご決断下されたと聞き及んでおりますが、いずれは長崎や函館の鎖港もお考えなのでしょうか」


そうあって欲しいと願うような、山南さんの口ぶりだった。
慶喜さんはそれには答えず、今自分が何故この場にいなければならないのかさっぱり分からずにいる私に目を向ける。


「さくらはさ、鎖港についてどう思う?」


無茶ぶりここに極まれり。
そんなこと聞かれましてもーーーっ。


四人の視線が一斉に私に注がれるのを感じ、私は口にしかけいてた蓴菜(じゅんさい)が気管に入りかけて軽くむせてしまった。


「どうって・・・言われましても・・・・・・」
「この中ではさくらが一番市井の者と交わっているだろう? そのさくらがどう思うのか、聞きたいんだ。政(まつりごと)は、本来民のためのものだからね」


なるほど、下々の意見が聞きたいということか。

合点がいった私は、少し考えてから口を開いた。


「横浜の開港以来、諸式は上がりつづけています。そのせいで暮らしが苦しくなった人は沢山いる。でも、闇雲な鎖港はもう無理なんじゃないでしょうか」


ちらりと窺った慶喜さんに、目顔で続けるよう促される。


「海路が開かれた今となっては、この国だけが孤高を守りつづけるのは難しいです。国を守るためにもお金は必要だし、富を得るために貿易は不可欠かと」
「要は、やりようだよね」
「はい。何を特産にして売り込むのか。輸出品と輸入品の、相手国での相場を調べること。貨幣の価値も重要ですし、自国の産業を潰してしまわないよう保護することも大切だと。今はなにより特定の商人による買い占めを取り締まらないことには諸式が安定しなくて・・・・・・」


促されるままに言葉を連ねて、はたと気付いた。
まただ。また、やってしまった。


ここは現代日本ではないのだ。
思うままに語っては、自分が胡乱(うろん)な存在だと喧伝しているのと変わらない。

実際、私の向かい側に座っている近藤さんと山南さんが、呆気にとられた顔で私を見ている。
隣の席の土方さんを確かめることは、怖くてできなかった。


口を噤(つぐ)んで俯くと、土方さんが立ちあがる気配がして。


「ご無礼。少々酔いが回りましたので、醒まして参ります」


そんな露骨な嘘を吐き、部屋を出て行ってしまった。
どうしよう。生意気だと思われただろうか。それとも、気味が悪いと思われただろうか。

不安な気持ちが次々に頭をもたげて、土方さんが姿を消した襖を見つめていると、慶喜さんが忍び笑いを漏らした。


「追いかけていいよ、さくら。貴重な所見を有難う」

ちょいちょいと指先を振って、中座を許可された。

一体この人は、どういうつもりなんだろう。
私に何をさせたくてここに連れてきたのだろう。


疑問は尽きることはなかったけれど、今はそれより土方さんが気がかりだ。

近藤さんと山南さんに一礼をして、私は、心の求めるまま、土方さんの後を追いかけた。


第百六ノ六話に続く