第百話(余韻クラッシャーズ) | さらさの「粗野がーる」

さらさの「粗野がーる」

アメーバの携帯ゲーム「艶がーる」の主人公を、28歳・恋愛偏差値20の女性に置き換えた実験的小説を書いています。

あくまでフィクションなので、深く考えずに読んでください

四対の視線を受け、お盆を手にしたまま後ずさりした私に、藤堂さんが駆け寄ってきた。


「実にうまかったです!」


田楽の串を掲げニコニコしているものから、私もつい引き込まれて微笑んだ。


「それは、私が片付けておきますよ」
「え、いえっ」


断るひまもあらばこそ、私の手からお盆を奪い去ると、身軽に走り去ってしまう。

串を咥えたまま走ると危ないですよとか、足元に気をつけてとか、つい言いたくなってしまうのをぐっと堪えて視線を戻せば、できたら消え去っていて欲しいと願った三人組が変わらずそこにいる。


「どうも、お邪魔しました・・・失礼しますぅ」
「ちょっと待て」


ひきつっている自覚ありの笑顔と共に、さらっと告げて彼らの脇を駆け抜けようとした腕を、原田さんにがっしり掴まれた。


「なにか御用ですか」


殊更トーンを下げて出来うる限りの冷たい視線を向けは見ても、いつもながら全く怯むことのない原田さんは、私の上から下、前も後ろも眺めまわして、「ふーーん」「ほーーお」と意味ありげなにやにや笑いを浮かべる。

永倉さんは、そんな原田さんと私を怪訝な面持ちで交互に見ながら、前歯で咥えた串を上下に揺らめかせている。

沖田さんは、原田さんと同じように私を眺めた後、僅かに首を傾げて小さく笑う。


怖い怖い怖いっ。大男三人に囲まれて、体育館裏の苛められっ子気分なんですがっ。
藤堂さん、どうして行ってしまったのーーーっ。
貴方だけが救いだったのに!


「これうまかったぞ、さくら。礼に、これを貸してやる」


口の端に咥えたままの串をくゆらせてそう言い、原田さんは冊子のようなものを押し付けてきた。


「ちょっと、左之さん!そんなもの」
「まずいって、左之助」
「うるせえ、黙ってろ」


途端に慌てふためく他の二人を押しとどめ、原田さんが中を見ろと私を促す。

和綴じに色刷り、どうやらこの時代の書籍らしい。
タイトルらしく、大きな字で「当世 吾妻婦里」と。

ぱらりとめくって絶句した。


「それ読んで、よく学べ。置屋に住んでんだから、師匠にゃ困らんだろうけどよ」


原田さんが私に押し付けた本。それは、いわゆる枕草紙だった。
平たくいえば、エロ本だ。


「貸し本屋の本は、又貸し禁止ですよ」


沖田さんが咎めだてするけど、問題はそこだろうか。いや、違う。断じて違うはず。

「・・・他にもっと借りるべき本があるんじゃないですか」
「それ、俺が借りたわけじゃねぇぞ。平助が借りたんだ」


ありったけの軽蔑を視線に込めて原田さんを見あげるも、しれっとした原田さんから告げられたのは衝撃の事実。


「嘘ぉっ」
「本当だって」
「いや、正しくは、『平助に無理やり借りさせた』でしょう」


沖田さんの取りなしに、ほっとした。
よかった、藤堂さん像が崩壊するとこだった。


「にしてもよぉ・・・。お前にゃ恥じらうとか、悲鳴をあげるとかしてみたらどうなんだ。総司は真っ赤になったてぇのに」


呆れ返ったような永倉さんに言われ、ムッとする。

こちとら平成の世から来てるのだ。ネットに繋ぎゃ、見たくもないエロ広告が表示される。春画ごときで恥らうメンタルの女子は、平成にはいない。


「うるさいな、新さんは。よけいなこと言わないでください」


本の中身を思いだしてしまったのか、耳まで真っ赤になった沖田さんは、私の手から本を取り上げて原田さんに押し付けた。


「さくらさん、もうお帰りでしょう? 送ります」
「ありがとうございますっ」


いつもならとお断りするところだけど、一刻も早く原田さんから離れたい今、沖田さんの申し出は渡りに船だ。

いそいそとご一緒することにしたのだけれど。


島原へと戻る道すがら、何かを発見した沖田さんが、わあっと子供じみた歓声をあげ。
目にもとまらぬ速さで確保したソレを、「春ですねぇ。はい、どうぞ」と、私の掌に落としてくれて。

ぬるりとぬめったその感触に、ソレの正体を確認した私は、近隣の人が飛び出してくるほどの悲鳴をあげる羽目になった。


贈りものは、季節はずれのカタツムリ。

悪気はないとわかっているけど、剣の修行ばかりじゃなくて、女子の生態も学んで欲しいと、痛烈に思う一幕だった。

返せ、私の甘い気分。


第百ノ二話に続く