高校2年生のとき、初めて家のことを話した友人がいた。
きっかけは些細なことだった。
放課後、いつものように「今日は用事があるから」と断ろうとした私に、その子がふと聞いた。
「いつも用事って、何?」
いつもなら適当にはぐらかしていた質問だった。
でもその日は、なぜか言葉が出てきた。
母のこと、妹のこと、家のこと。
話し始めたら止まらなくなって、気づけば下校時間ぎりぎりまで、教室で話し続けていた。
彼女は、特別なことは何も言わなかった。
「大変だったね」「知らなかった、ごめんね」。
ただそれだけ。
アドバイスも、同情の言葉も、なかった。
それなのに、体の力がふっと抜けた感覚を、今でも覚えている。
それから彼女は、何かを手伝おうとするわけでもなく、ただ普通に接してくれた。
「今日も家の用事?」と聞かれることもなくなった。
時々、「元気?」とだけ聞いてくる。
それだけで十分だった。
助けてほしかったわけじゃない。
特別扱いしてほしかったわけでもない。
ただ、知っていてくれる人が一人いる。
それだけで、抱えている荷物が少し軽くなるのだと、そのとき初めて知った。
小さな言葉が、あの頃の私を救ってくれた。
(第6話につづく)
