会いたくて~出発~
気がつけば、僕は下を向いて歩いていた。
間違えない様に、そして躓かない様に。
言い変えてみれば、前を見据え真っ直ぐ歩く事が苦しかっただけのかもしれない。
ただ逃げたかっただけなのかもしれない。
頂き物で読みかけだった坂木 司さん著書の「青空の卵」を狭い座席で読みふけっていると、隣のケンタがどうにも落ち着かない素振りを見せる。
「どうした?ケンタ・・・?」
「まだ飛ばないのかな・・・」
聞けば、昨夜は興奮の余り寝付くことが出来ず、実際床についたのは今朝7時のことだったらしい。
僕が確認の電話をかけた時に目覚めたそうだから、実質4時間睡眠だ。
「お前は、遠足を控えたどこぞの小学生か!!」
笑いの止まらぬ二人は、これからかつての相棒と再開する為に北海道行きの飛行機に搭乗していた。
いよいよ離陸を迎え、相変わらずソワソワする友人を尻目に読書を続ける。
ふと窓の外を眺めると、だんだん地上の建物が小さくなって行く様子が見て取れた。
それはまるで、おもちゃの様に見えてくるから面白い。
ぐんぐん高度を上げる飛行機。
白い壁を突き抜け、目の当たりにする雲海。
綺麗だった。
こんなにも綺麗なのかとハッとした。
同じ綺麗さでも、今まで見た光景と何かが違う。
仕事で向かう飛行機の光景と、何も恐れず不安もないまま見る光景。
世界は、見るもの全てが気持ち一つで姿を変えるのだ。
気がつけば冷静を装っているはずの自分も、上がるテンションを抑えきれなくなっていた。
いつもなら空の上で睡魔に負けているはずが、一睡も出来なかったのは、その表れだろう。
着陸態勢に入った頃には、離陸時の浮く瞬間が一番好きだなんて興奮していたケンタも、流石に落ち着きを取り戻していた。
夕暮れの空港は滑走路のネオンが眩く、知らない土地へ来た僕の五感を更に刺激した。
無事着陸をし、レンタカーを借りてくるケンタのかわりに荷物を受け取った僕は、まだ少し浮足立った歩様のまま外へと向かう。
次の瞬間、上がったテンションが気温と共に、一気に急降下した。
「さっぶいんですけどー!」
北国は甘くなかった。
こちらでは残暑がまだ続く感じなのに、すでに秋の香りを漂わせている。
なかなか来ないケンタにヤキモキしながら、北海道の夜を肌に感じた。
その日は現地に滞在する親しい厩務員さんと食事を共にしたが、札幌の町並みに目移りしてしまい、どうにも田舎っぺを露呈していたことは言うまでもない。