あなたが私にくれたもの・・・テレジェニック(2)
皆さん、こんにちは。
沢山のメッセージをありがとうございます。寮長です。
20件を超すメッセージ、一つ一つに様々な思いが込められていて、胸が熱くなりました。
ここで、一つだけお願いがあります。
以前から感じていたのですが、僕の日記とそれに対するコメントで「暖かい気持ちになれた」という方々がいるのも事実なんです。
僕自身も、日記の内容とコメント全てで一つのブログが成されていると実感しています。
ですので、これからも出来るだけこちらのブログの方に書き込みして頂けると嬉しく思うんです。
厚かましい身勝手なお願いをしてすみません。
これからも、沢山のコメントとメッセージお待ちしております。
では、テレジェニックの話の続きをどうぞ!
もう少し・・・
あともう少し・・・
惜しいところで勝ちきれないこの馬を、自分と重ね合わせていたのかもしれない・・・
=============
12月の初障害レースで三着。
その後も三着二着と好走し、もう一歩のところで勝ちきれなかったりもしたが、俺は確かな感触を掴んでいた。
最後の一伸びが足らないのは、元来からの気難しさゆえだった。
しかし、それ以上に持ち前の手先の軽さと、障害を飛越する際のセンスを俺は信じていた。
「いつか大舞台でもやれる馬になる。」
そう信じていたんだ。
そうして迎えた2004年7月。
テレジェニックが障害競馬に走るようになって六回目のレースでの出来事。
場所は新潟競馬場。
十四頭だての三番人気。
いつものように、ヒヤヒヤしながら返し馬を終えた俺は、相棒をなだめつつゲート(発馬機)に向かう。
相棒はこの前まで数ヶ月間放牧し、休みを挟んでいたので、少し仕上がりがもう一歩かな?とも懸念はしていたが…
スタート地点に到着し、発走の合図であるファンファーレが高く鳴り響くと、俺はすべての雑念を捨てて競馬に集中することにした。
後はこの馬を、どれだけ気分良く走らせてやるかだけだ…
心にそう決め、その時を待つ。
全頭の枠入りが完了し、次の瞬間
「ガッシャン!!」
という、機会音と共に全馬一斉にスタートをきった。
スタートしトップスピードになった各馬は、第一障害に向けて、また自分のポジションを確保する為に牽制しあう。
ここで、このレースにおける自分の騎乗馬の展開がほぼ決まってしまうので(一概ではないが)、勝ち負けになる馬に乗っている騎手は尚更のこと必死だ。
第一障害を…ジャンプ!!
思い切って遠目から飛越する馬。
気を使って小脚を使い、ちょこっと障害を飛越する馬。
各馬、おのおのの飛び方で飛越する。
一つ目を飛越する時点では、まだポジションが定まっていない。
そして一つ目の障害を上手く飛越できたかどうかでその後の飛越するリズムにも影響を及ぼすことになる。
スタートの早い相棒を、綺麗な飛越で第一障害をクリアすることが出来た俺は、焦らず先行したそうな他馬を行かせ、先行集団の五番手に付けた。
理想的な位置だ。
ポジションが決まり、コーナーに入ってから、馬に息を入れさせる為、少しペースを控える先頭。
ここで引っ掛かってしまっては(ブレーキが効かなくなった状態)最後の余力が無くなってしまう。
「ジェニ…まだだよ。今は我慢だ。」
俺は最内の経済コースで、グイグイいきたがる相棒をじっとなだめた。
コーナーを抜け、各馬直線に並ぶ連続障害へと向かう。
最内に位置をとった俺とテレジェニックは前に馬が2、3頭いるため、障害が見えにくい。
冷静に、他馬の妨害をしないよう、少しだけ見える位置…少しだけ見える位置に馬を誘導し障害を飛ぶ。
これだけ冷静に乗れるのは、相棒を信頼できてこそ。
お互い一歩間違えば生命の危険にさらされるのだ。
そうして直線を走り抜け、楕円形のコースで次のコーナーを迎える。
初めのコーナーには障害は無かったが、反対側のほうには障害があった。
「まずい…間歩があわない!」(飛越する際の踏み切る位置)
合わないからと言って、今さら焦っても仕方ない。
と言うより焦る暇などない。
すべてを一瞬で判断し、考えるよりも早く行動しなければ間に合わない。
状況次第では推進して飛ばしたり、逆に控えたりもするが…
あえて俺は相棒の判断に任せることにした。
無理に人間がいじって余計にバランスを崩すより、相棒の飛越センスに賭けたのだ。
いつもは大きめに気持ち良く飛越する相棒は、小脚を使いちょこっと障害を飛び越えた。
少しヒヤッとしたが、焦っている暇も安心している暇もないという事に、変わりはなかった。
残っている障害は向こう正面と最後の直線、合わせて4つ。
まだまだ気は抜けない。
道中、障害を飛越しながら各馬の状態を把握し、ライバルの位置を確認し、ペース配分を考慮する。
見ていて分からないとは思うが、乗っていると思った以上にやる事は多い。
そうして迎えた第四コーナー。
残る障害は後一つ。
相棒の手応えを確認し、他馬の余力をチェックし、俺は勝負どころを決めた。
「今だ!!」
もう後には引けない。
軽快に伸びていくテレジェニック。
迫りくる最終障害。
馬も人も栄光のゴールに向け、ボルテージは最高潮になっている。
だからこそ、そこに落とし穴がある。
何度、そこでひっくり返った馬と人を見たことだろう。
俺は相棒のリズムを急がせながらも整える事に専念し、最終障害を飛び越えた!
完璧な間歩に、完璧な飛越の曲線。
人馬一体と表すのが、一番適切に思える瞬間。
その止まったかの様な一瞬の時の中で、俺は相棒と共に、確かに宙を舞った。
着地し、短い旅の終わりを告げる目的地まであと数十メートル。
俺はがむしゃらに追った。
相棒はがむしゃらに走った。
他馬を尻目に軽快に伸びていく相棒。
ゴール!!
そうして見事、俺達は一着を勝ちとったのだ。
一仕事を満足のいく結果で終え、引き上げてくる俺達を、微笑み迎える師匠と厩務員さん。そして馬主さん。
後検量を終えた俺は、相棒をねぎらいながらウイナーズサークルへと歩みを進めた。
ウイナーズサークルに到着し、次々と掛けられる「おめでとう!」の賞賛が心地よく、そして嬉しかった。
「やったなジェニ!」
写真をとり終えると俺は、まだ息が入らずゼエゼエ呼吸を荒げている相棒の首筋に抱きついた。
「ありがとう…」
と感謝の思いを込めて。
未勝利を勝ち上がって、次の昇級戦はいきなりの重賞レース(JG‐3)だった。
ここでは九番人気の低人気だったが四着と、昇級戦にしては満足のいく内容。
そして相棒の未知なる潜在能力がある事に、俺は確信を持った。
これなら、いつか上のクラスでも勝負できる…と。
自信を持つことが出来た一戦から数週後、昇級後二戦目に挑むことになった。
返し馬で、相棒の体調の良さそうな手応えを噛みしめ、そして前走より手頃なメンバーという相手関係から、好走出来そうな予感があった。
しかし物事はそう上手くは行かない。
順調だからこそ、その裏に魔物が潜んでいる
いつもの様に返し馬を終え、ゲートに入りスタートする。
少し前めの位置取りは想定内だった。
いきたがる相棒を上手くなだめ、迎えた二周目の向こう正面でそれは起こった。
3つ連続で並んだ障害を1つ2つと飛越し、3つめの障害だった。
ガコンっっ!!
厚い信頼をよせていた相棒は、脚を上げずに障害に突っ込み、危うく転倒しかけた。
「何が起こったんだ!?」
今までした事のないミスを相棒がした事で、俺の頭の中は半分パニックに陥った。
瞬時にテレジェニックの歩様を確認し、原因も結果も分からないままゴールした。
結果は九着とイマイチだったが、とりあえず無事だった…
安堵のため息をつきながら、検量室に引き上げてきて下馬した際に絶句した。
脚を守るために着けたバンテージがずれている…
その瞬間、俺の安堵は怒りに変わった。
《人の失敗をとやかく言うのはキライだが、事実として(その厩務員さんはもう辞めてトレセンにいないし)少しだけ書かせて貰うことを了承して欲しい。》
その時の担当厩務員に、普段めったに怒らない俺が、物凄い剣幕で食ってかかった。
なぜなら、先日もテレジェニックの調教中、腹帯(鞍を固定するための帯)を留める革が手入れ不足により断裂し、俺は馬の背中から空中に鞍もろとも放り出されたばかりだったのだ。
ましてや今回は競馬の最中。
馬のミスがあったとしても、人のミスは許されない。
馬券を買ってくれるファンもいるし、一歩間違えば馬も騎手も死ねるのだ。
憤りは冷めきらなかったが、その時はテレジェニックに怪我がない分ホッとし、その週の競馬を終えた。
今だからはっきり言える。
俺の相棒は気チガイやバカ馬じゃなくて、バンテージ一つで走れなくなっちゃうぐらい、本当に繊細で賢いヤツなんだ…
後に、その厩務員さんが事情によりトレセンを去り、代わりに矢野厩舎に配属したケンタと呼ばれる同い年の厩務員が担当することになる。
そして二人は三人となり、夢に向けて歩み始めた・・・
(-Special Thanks-写真を撮ってくれた皆さん)
沢山のメッセージをありがとうございます。寮長です。
20件を超すメッセージ、一つ一つに様々な思いが込められていて、胸が熱くなりました。
ここで、一つだけお願いがあります。
以前から感じていたのですが、僕の日記とそれに対するコメントで「暖かい気持ちになれた」という方々がいるのも事実なんです。
僕自身も、日記の内容とコメント全てで一つのブログが成されていると実感しています。
ですので、これからも出来るだけこちらのブログの方に書き込みして頂けると嬉しく思うんです。
厚かましい身勝手なお願いをしてすみません。
これからも、沢山のコメントとメッセージお待ちしております。
では、テレジェニックの話の続きをどうぞ!
もう少し・・・
あともう少し・・・
惜しいところで勝ちきれないこの馬を、自分と重ね合わせていたのかもしれない・・・
=============
12月の初障害レースで三着。
その後も三着二着と好走し、もう一歩のところで勝ちきれなかったりもしたが、俺は確かな感触を掴んでいた。
最後の一伸びが足らないのは、元来からの気難しさゆえだった。
しかし、それ以上に持ち前の手先の軽さと、障害を飛越する際のセンスを俺は信じていた。
「いつか大舞台でもやれる馬になる。」
そう信じていたんだ。
そうして迎えた2004年7月。
テレジェニックが障害競馬に走るようになって六回目のレースでの出来事。
場所は新潟競馬場。
十四頭だての三番人気。
いつものように、ヒヤヒヤしながら返し馬を終えた俺は、相棒をなだめつつゲート(発馬機)に向かう。
相棒はこの前まで数ヶ月間放牧し、休みを挟んでいたので、少し仕上がりがもう一歩かな?とも懸念はしていたが…
スタート地点に到着し、発走の合図であるファンファーレが高く鳴り響くと、俺はすべての雑念を捨てて競馬に集中することにした。
後はこの馬を、どれだけ気分良く走らせてやるかだけだ…
心にそう決め、その時を待つ。
全頭の枠入りが完了し、次の瞬間
「ガッシャン!!」
という、機会音と共に全馬一斉にスタートをきった。
スタートしトップスピードになった各馬は、第一障害に向けて、また自分のポジションを確保する為に牽制しあう。
ここで、このレースにおける自分の騎乗馬の展開がほぼ決まってしまうので(一概ではないが)、勝ち負けになる馬に乗っている騎手は尚更のこと必死だ。
第一障害を…ジャンプ!!
思い切って遠目から飛越する馬。
気を使って小脚を使い、ちょこっと障害を飛越する馬。
各馬、おのおのの飛び方で飛越する。
一つ目を飛越する時点では、まだポジションが定まっていない。
そして一つ目の障害を上手く飛越できたかどうかでその後の飛越するリズムにも影響を及ぼすことになる。
スタートの早い相棒を、綺麗な飛越で第一障害をクリアすることが出来た俺は、焦らず先行したそうな他馬を行かせ、先行集団の五番手に付けた。
理想的な位置だ。
ポジションが決まり、コーナーに入ってから、馬に息を入れさせる為、少しペースを控える先頭。
ここで引っ掛かってしまっては(ブレーキが効かなくなった状態)最後の余力が無くなってしまう。
「ジェニ…まだだよ。今は我慢だ。」
俺は最内の経済コースで、グイグイいきたがる相棒をじっとなだめた。
コーナーを抜け、各馬直線に並ぶ連続障害へと向かう。
最内に位置をとった俺とテレジェニックは前に馬が2、3頭いるため、障害が見えにくい。
冷静に、他馬の妨害をしないよう、少しだけ見える位置…少しだけ見える位置に馬を誘導し障害を飛ぶ。
これだけ冷静に乗れるのは、相棒を信頼できてこそ。
お互い一歩間違えば生命の危険にさらされるのだ。
そうして直線を走り抜け、楕円形のコースで次のコーナーを迎える。
初めのコーナーには障害は無かったが、反対側のほうには障害があった。
「まずい…間歩があわない!」(飛越する際の踏み切る位置)
合わないからと言って、今さら焦っても仕方ない。
と言うより焦る暇などない。
すべてを一瞬で判断し、考えるよりも早く行動しなければ間に合わない。
状況次第では推進して飛ばしたり、逆に控えたりもするが…
あえて俺は相棒の判断に任せることにした。
無理に人間がいじって余計にバランスを崩すより、相棒の飛越センスに賭けたのだ。
いつもは大きめに気持ち良く飛越する相棒は、小脚を使いちょこっと障害を飛び越えた。
少しヒヤッとしたが、焦っている暇も安心している暇もないという事に、変わりはなかった。
残っている障害は向こう正面と最後の直線、合わせて4つ。
まだまだ気は抜けない。
道中、障害を飛越しながら各馬の状態を把握し、ライバルの位置を確認し、ペース配分を考慮する。
見ていて分からないとは思うが、乗っていると思った以上にやる事は多い。
そうして迎えた第四コーナー。
残る障害は後一つ。
相棒の手応えを確認し、他馬の余力をチェックし、俺は勝負どころを決めた。
「今だ!!」
もう後には引けない。
軽快に伸びていくテレジェニック。
迫りくる最終障害。
馬も人も栄光のゴールに向け、ボルテージは最高潮になっている。
だからこそ、そこに落とし穴がある。
何度、そこでひっくり返った馬と人を見たことだろう。
俺は相棒のリズムを急がせながらも整える事に専念し、最終障害を飛び越えた!
完璧な間歩に、完璧な飛越の曲線。
人馬一体と表すのが、一番適切に思える瞬間。
その止まったかの様な一瞬の時の中で、俺は相棒と共に、確かに宙を舞った。
着地し、短い旅の終わりを告げる目的地まであと数十メートル。
俺はがむしゃらに追った。
相棒はがむしゃらに走った。
他馬を尻目に軽快に伸びていく相棒。
ゴール!!
そうして見事、俺達は一着を勝ちとったのだ。
一仕事を満足のいく結果で終え、引き上げてくる俺達を、微笑み迎える師匠と厩務員さん。そして馬主さん。
後検量を終えた俺は、相棒をねぎらいながらウイナーズサークルへと歩みを進めた。
ウイナーズサークルに到着し、次々と掛けられる「おめでとう!」の賞賛が心地よく、そして嬉しかった。
「やったなジェニ!」
写真をとり終えると俺は、まだ息が入らずゼエゼエ呼吸を荒げている相棒の首筋に抱きついた。
「ありがとう…」
と感謝の思いを込めて。
未勝利を勝ち上がって、次の昇級戦はいきなりの重賞レース(JG‐3)だった。
ここでは九番人気の低人気だったが四着と、昇級戦にしては満足のいく内容。
そして相棒の未知なる潜在能力がある事に、俺は確信を持った。
これなら、いつか上のクラスでも勝負できる…と。
自信を持つことが出来た一戦から数週後、昇級後二戦目に挑むことになった。
返し馬で、相棒の体調の良さそうな手応えを噛みしめ、そして前走より手頃なメンバーという相手関係から、好走出来そうな予感があった。
しかし物事はそう上手くは行かない。
順調だからこそ、その裏に魔物が潜んでいる
いつもの様に返し馬を終え、ゲートに入りスタートする。
少し前めの位置取りは想定内だった。
いきたがる相棒を上手くなだめ、迎えた二周目の向こう正面でそれは起こった。
3つ連続で並んだ障害を1つ2つと飛越し、3つめの障害だった。
ガコンっっ!!
厚い信頼をよせていた相棒は、脚を上げずに障害に突っ込み、危うく転倒しかけた。
「何が起こったんだ!?」
今までした事のないミスを相棒がした事で、俺の頭の中は半分パニックに陥った。
瞬時にテレジェニックの歩様を確認し、原因も結果も分からないままゴールした。
結果は九着とイマイチだったが、とりあえず無事だった…
安堵のため息をつきながら、検量室に引き上げてきて下馬した際に絶句した。
脚を守るために着けたバンテージがずれている…
その瞬間、俺の安堵は怒りに変わった。
《人の失敗をとやかく言うのはキライだが、事実として(その厩務員さんはもう辞めてトレセンにいないし)少しだけ書かせて貰うことを了承して欲しい。》
その時の担当厩務員に、普段めったに怒らない俺が、物凄い剣幕で食ってかかった。
なぜなら、先日もテレジェニックの調教中、腹帯(鞍を固定するための帯)を留める革が手入れ不足により断裂し、俺は馬の背中から空中に鞍もろとも放り出されたばかりだったのだ。
ましてや今回は競馬の最中。
馬のミスがあったとしても、人のミスは許されない。
馬券を買ってくれるファンもいるし、一歩間違えば馬も騎手も死ねるのだ。
憤りは冷めきらなかったが、その時はテレジェニックに怪我がない分ホッとし、その週の競馬を終えた。
今だからはっきり言える。
俺の相棒は気チガイやバカ馬じゃなくて、バンテージ一つで走れなくなっちゃうぐらい、本当に繊細で賢いヤツなんだ…
後に、その厩務員さんが事情によりトレセンを去り、代わりに矢野厩舎に配属したケンタと呼ばれる同い年の厩務員が担当することになる。
そして二人は三人となり、夢に向けて歩み始めた・・・
(-Special Thanks-写真を撮ってくれた皆さん)